約束は果される。彼の言葉に嘘はなったのだ。10月1日(日)に福岡「天神中央公園」で行われた「高塔山ロックフェス@天神」に続き、10月21日(土)に北九州・若松「高塔山野外音楽堂」で「高塔山ロックフェス2023」が行われた。
何故、”高塔山”なのか。少し長くなるが、今回のイベントのパンフレットに掲載された文章を引用する。
「1962年、東洋一の吊り橋『若戸大橋』の開通記念で開催された『若戸博』。その会場になる事で整備された『高塔山公園』、そして『高塔山野外音楽堂』。まるでゴールデンゲートブリッジとハリウッドボウルのカップリングともいえる当時のモダンなランドマークが、シーナさんの故郷『若松』には存在する。
『ロックな街』北九州若松から、やがてYou May Dream! 『シーナ&ロケッツ』が旅立ち、高塔山で産まれた『ルースターズ』のサウンドが日本のロックに革命をもたらした。その後もアップビート、ゼロスペクター等、次々とシーンへコマを進める中、メジャーデビュー。東京へと向かった。プロデューサー倉掛“HIDE”英彰『ex.NEW DOBB』もメジャーデビュー。東京へと向かった。『シーナ』の想いが詰まった1つの場所、『鮎川誠』という1人の存在が街を変えた。忘れられない1976年の冬、HIDEが大江慎也、池畑潤二両氏と共に『バラ族』としてステージに立ったその日こそが、鮎川夫妻との出会い『未来を予感した日』だった。そんな体験、当時の空気感こそ、次世代へと語り継がれてほしい。シーナさんが残してくれた『高塔山伝説』のリアルだ。
そして2023年は鮎川誠。そしてシーナへ追悼の意味を込めた開催となる。2人が出会い、ロックミュージックを育んだ街『福岡・若松』、この二都市での開催は、フェス側からのリスペクトを表現する1つの方法だと思っている。『来年も“ぜったい”に会おう!』そう言い放ってステージを降りた2022年、場所がなければ会えるはずもない。2月の東京・代田橋『ロック葬』から戻ったオレは、その答えを見つけるのに半年の時間を必要とした。福岡と若松、どちらも出演いただく『LUCY MIRROR』、そして彼女が立つステージこそが、『約束の場所』なのだ」
これは「高塔山ロックフェス」のプロデューサーである倉掛“HIDE”英彰の決意表明である。そこには彼の思いと願いが詰まっていると言っていいだろう。
この日、2023年10月21日(土)、高塔山の空は澄み渡り、太陽の光が降り注ぐ。既に季節は秋だというのにまるで真夏のようである。午前10時過ぎ、HIDEは、10月1日(日)に続き、司会を務める元175Rのギタリストで『北九州音楽全史』の制作にも関わったKAZYAとともに登場。今回の開催について、改めて語った。
それを作れば彼はやってくる――そんな“啓示”が降りてきたのは、この8月のある日、それは高塔山でのことだった。同所には40年前に他界した、HIDEの父親の墓所があるという。お盆の前に墓参に訪れたが、やはり気になるのは高塔山野外音楽堂である。雑草などの具合も気になり、同所に足を踏み入れる。そうしたら木陰の間から、夏の暑い日だったので、陽炎が立ち昇っていて、それの中に鮎川誠の姿を見たそうだ。その時、“それを作れば彼はやってくる”――映画『フィールド・オブ・ドリームズ』の言葉が浮かんだという。
「やっぱりやらないと、会えんじゃない。鮎川さんの“絶対に会おう”が嘘になってしまう。鮎川さんに嘘つかしてはいけんやろう」
それから急遽、スタッフやミュージシャンなどに声を掛け始めた。LUCYからは“えらい急やね”と言われながらも快諾を取り付け、わずか、2か月の間にこの日のための準備を整えたのだ。
「今年ほど、スタッフを含め、皆様のありがたみを感じた年はなかった。追悼という思いをこめたフェスになったのかな。これからですけど(笑)。ただ、天神はやりましたから。高塔山を高塔山で終わらせていけないな。今年に限って言えば。高塔山をもっと知っていただいて、こんな素晴らしい場所があるんだ、ロケッツがこの場所を残してくれたんだ。高塔山は北九州の“日本夜景遺産”(日本新三大夜景都市全国1位)とかになっているけど、高塔山は夜景だけじゃないぞ、文化遺産なんです」
そんな思いを熱く語るHIDE。わずか、2か月という短い準備期間を経て、この日を無事に迎えることができた。多くの方の協力と献身があって、「高塔山ロックフェス2023」が開催される。
「怪獣ピクルス」
開催を告げ、オープニングを飾るため、最初にステージに登場したのがスリーピースバンド、「怪獣ピクルス」だった。パンフレットには“北九州発メンヘラパンクバンド!”と紹介されている。“日々の生きづらさをキャッチーなメロディとアツいライブに乗せてぶつけます!!”というメッセージもあった。軽快なスリーピースのビートバンドながら、歌っている内容は深刻なものである。しかし自家中毒的に泥濘や耽溺することはなく、内に引きこもらず、外へと向いている。彼女達は自分達をトップバッターとして抜擢してくれたことに感謝しつつ、“私達みたいなクソガキでも生きることで悩むことがあって、辛くて、生きづらいことがあっても、そんな中、誰かと繋がって、手を取り合って生きていけると思って、バンドをやっています”と語る。重いテーマを抱えながらもどこかで救いがある。北九州の新世代の誕生を感じさせる。新しい何かが始まろうとしている。こんな思いもかけないバンドに出会えるのが高塔山ではないだろうか。
「月追う彼方」
続いて登場するのは「月追う彼方」。北九州市発スリーピースロックバンド。現メンバーはギターとヴォーカルのしほ(1998年4月30日生まれ。月追う彼方の作詞作曲、物販等、イラストも担当している)とベースとコーラスの上田花莉(1999年3月10日生まれ。月追う彼方のムードメーカー。ライブ演出やグッズ販売、告知等の裏方業務にも深く関わっている)にドラムスがサポートメンバーとして加わる。元々は2019年に結成され、福岡を中心にライブ活動を開始。同年5月に1st Single 「ちゅうぎん通り」をリリースしている。翌2020年には1st EP 「夜のとばりが下りた頃」をリリース。2021年から活動拠点を東京に移し、2022年2月に2nd EP「雪月花を思い出す」をリリースし、同月に初となるリリースツアー「春を迎えに行くツアー」を開催。全国に活動範囲を広げる。2023年4月には3rd Single 「進美眼」をリリースした。
弾けた歌と音で聞くものを虜にする勢いがある。ガールポップムーブメントの一翼を担うかもしれない――そんな期待を抱かせる北九州発の新星だろう。彼女達は“いまは北九州から出て、東京で活動していますけど、どんなに時代が移り変わっても、そんな中、帰る場所があって、変わらない、帰るべきイベントがあるということは、私達を強くしてくれる。これからも北九州発って、でっかい声出して活動していきたい”と語る。月追う彼方にとって、それは彼女達の心意気ではないだろうか。11月9日(木)に3rd E.P「未明」をリリースした。同作は地元・北九州でレコーディングされている。11月12日(日)に地元、小倉のライブハウス「FUSE」で“レコ発ライブ”を行った。“北九州発”の頼もしいバンドである。
「Little Pink Summer」
高塔山ロックフェスのステージは、野外音楽堂には1ステージのみ。そのため、複数のバンドが登場するフェスやイベントでは、次のバンドの本番まで、楽器やアンプのセッティングやサウンドチェックなどは“公開リハーサル”状態になる。月追う彼方に続いて出演する「Little Pink Summer」がいきなり、ルースターズの「気をつけな」を演奏したのには驚いた。本番かと思ったが、リハーサルだった。高塔山でルースターズのナンバー、こんなに“映える”ナンバーはないだろう。
Little Pink Summerは2021年に北九州で結成され、本2023年に1st Full Album『惑星001』をリリース。リリースに併せ、全国リリースツアーを行っている。メンバーはトミナガ ユウスケ(Vo)、ミヤオカ イクミ(G)、スミキ(B)、タクミ(Dr)の4人組。平均年齢は22歳だという。当然、ルースターズが誕生した時には、まだ、生まれてもいなかった。
実際、彼らのロックンロールは小気味いいくらいに直截で爽快。ルースターズ→ミッシェルガン・エレファント→ザ・バースディという直系ながら揺らぎや捻りは彼らならではかもしれない。ヴォーカリストのトミナガ ユウスケの不適な面構えと傍若無人な歌声に射抜かれる。バンドの演奏も彼を引き立てつつ、各々が確かな演奏力で主張している。こんな生きのいいバンドがこの時代に登場してくるのが北九州のロックの底力ではないだろうか。彼らは“ありがとう、高塔山ロックフェス”という言葉を残し、ステージを去った。そんな仕草さえ、とてもクールでスタイリッシュだった。
「Art title」
生きのいいロックンロールバンドから繊細な歌と大らかな演奏が魅力なのが次に登場する「Art title」。地元・福岡を中心に活動しつつ、「りんご音楽祭」、「TOKYO CALLING」、
「MINAMI WHEEL」など、各地のフェス、イベントにも出演する男性5人組の“旅するロックバンド”である。2018年にコピーバンド時代にヴォーカルとギターの山本の歌声がYouTubeにアップされると、その歌声が話題を呼び、50万回を超える再生回数を記録したという。2019年からオリジナル楽曲での本格的なバンド活動を開始。EP「イドとエゴ」を自主制作。ソールドアウトが続き、急遽タワーレコードの一部限定店舗で販売された。2020年7月から現在の5人体制の活動がスタート。初の全国流通盤「ブンメイタイカ」をリリースしている。
どこか、インディ―ポップやシューゲイザーの香りがするバンドで、私的にはオズ・オッソスや四人囃子にも相通じると思っている。幾重にも織りなしたサウンドデザインに叙情性と文学性が宿る。エモーショナルで、どこか、映像的なのも特色だろう。福岡に流れる葡萄畑やフラットフェイス、松尾清憲、杉真理、ゴーグルズなどのビートリーなモダンロックの系譜(おそらく、本人達はまったくそんなことは意識してないはず)を感じさせつつ、唯一無二のポップアヴァンギャルドな世界を形作る。もっと、多くの人達に聞かれるバンドだろう。
同バンドが演奏を終えたのは、午後12時40分ほどだが、午前の部(!?)に出演した4バンドとも全国的にはほぼ無名ながら、その演奏力と音楽性に高いものがあった。選りすぐりのバンドがしのぎを削る。北九州、福岡の底力、恐るべし。こんなバンドが普通に新人バンドとして出てくる街は、北九州ならではだろう。多様でいて高品質のバンドをさりげなくラインナップしてくる――高塔山ロックフェスの確かな目を感じさせるのだ。
「Makoto & kaz」
午後の部は「Makoto & kaz」から始まる。高橋まこととkazのユニットで、2018年、2021年にも出演している。高橋まことは説明不用BOØWYのドラマーだ。現在はソロと並行し「Let’s Go MAKOTOØ’S 」等において活動中。「ミスター・エイトビート」「原子のドラム」の異名を持つ。Kazは北九州市出身。一音一音に魂を込めてギターをかき鳴らす、そのスタイルは「soul guitar」と呼ばれている魂のギタリスト。BOØWYに憧れギターを始め、憧れの高橋まことと、この高塔山のステージに立つ。BOØWYの「B・ BLUE」や「BAD FEELING」、「Marionette」など、お馴染みのナンバーをこれでもかと繰り出す。2人だけだがオリジナルに負けない、勢いと熱さがある。
高橋まことは福島出身だが、群馬が生んだBOØWYのビートを叩き出したのは彼である。高橋がいなければ彼らの独特のビートは生まれなかった。彼らと同時代を生き、日本のビートシーンを席巻したのがサンハウスやシーナ&ロケッツ、ザ・モッズ、ザ・ロッカーズ、ザ・ルースターズなど、北九州や福岡発のバンド達だ。何か、高橋が高塔山にいて、北九州出身のkazと、新たにビートを紡ぐ、何か、必然のような感じもする。そんな瞬間を見られるのも高塔山ではないだろうか。群馬と北九州を結ぶビートの綾を織りなす。そんな物語も見えてくるのだ。
「Ban Ban Bazar」
続いて登場するのは「Ban Ban Bazar」。1990 年に結成される。ストリートでの演奏がきっかけにギタリスト、吾妻光良に見いだされて、1st アルバム『リサイクル』でデビューしている。現在は福島康之、黒川修の 2 名編成。時に多彩なゲスト プレイヤーを加え、JAZZ、JIVE、JUMP BLUES、FOLK、COUNTRY、LATIN、 HAWAIIAN など、オールドタイミーで様々なルーツの香りのする GOOD MUSIC を送り続けている。 結成以来一貫してこだわっているのがライブ。ライフワークでもある全国を廻るツアーでライブに魅了される人々は増え続けているという。「FUJI ROCK FESTIVAL」、「RISING SUN ROCK FESTIVAL」、「NAKASU JAZZ」など、 全国各地の様々なフェス、イベントなどにも出演している。
2002 年からは湖畔のキャンプ場を借り切っての野外フェス「勝手にウッドストック」を主催。ステージ設営も手作りで、フードに馴染みのライブハウスからの出店と、バンバンバザールのライブの良いところが凝縮されている。また、2006年には北九州・響灘緑地にて野外イベント「勝手にニューポート2006」を開催。数多くのアー ティスト、ファンと過ごす、その場の心地よさはまるで音楽の桃源郷と評されるという。
2003 年にオリジナルレーベル「HOME WORK」を設立。他アーティストの楽曲、アルバムプロデュース、リリースなど、その活動の輪を広げ、NHK「みんなのうた」に彼らの「回れトロイカ」がオンエアされた。
2013 年には福岡に新しい文化拠点「LIV LABO」をプロデュースオープン。ライブやイベントだけでなく、ギャラリーや上映会など、様々な活動を通じて“GOOD MUSIC,GOOD FEELING,GOOD LIFEの種をまき続けている”と言われる。ライブハウスとしては有山じゅんじ、奇妙礼太郎、六角精児バンド、藤井康一、永井真理子、中山うりなどが出演している。黒川は北九州出身。福島は東京出身ながら8年前から福岡に移住し、福岡を拠点として様々な活動を続けている。
その音楽性は幅広く、吾妻光良の推薦らしくルーツミュージックを独自の解釈でコンテンポラリーミュージックに仕上げる。ライブやサウンドはこれまで北九州や福岡のバンドとは趣を異にするが、実は鮎川誠とは関わりが深い。今回の出演も彼との縁が紡いだものだという。先日公開された映画『シーナ&ロケッツ 鮎川誠 ~ロックと家族の絆~』はRKB毎日放送の寺井到が撮影したドキュメンタリー番組を前身としているが、その番組の音楽を担当していたという。福島は“音楽の入れ替え作業をした”という。最初に制作した鮎川のドキュメンタリー番組をYouTubeに公開する際、権利などの関係で、そのまま使用することができないので、ビートルズの曲が流れる場面にはそれに相応しく、「LOVE ME DO」に聞こえるような曲(!?)を作ったそうだ。彼らは“もう一度、(映画を)見てください”という。鮎川との縁が新たな物語を生んだ。
実は寺井はバンバンバザールの密着しない(笑)ドキュメンタリーも制作していたという。寺井を挟み、関係が生まれ、繋がっていく。それが改めて高塔山と言う場所で可視化される。不思議な磁場があるところだろう。それゆえ、たくさんの伝説が生まれるのではないだろうか。いずれにしろ、映画『シーナ&ロケッツ 鮎川誠 ~ロックと家族の絆~』をもう一度、見ることをお勧めする。
「桐明孝侍 from THE KIDS」
異色(!?)のバンドの後にはいかにも福岡というバンドが出てくる。「桐明孝侍 from THE KIDS」だ。桐明は1961年4月17日生まれ、62歳、福岡県福岡市出身である。THE KIDSのヴォーカル&ギター。1980年 博多でトリオロック・バンド「THE KIDS」を結成。FM福岡「桐明孝侍のワンナイトキッズ」を担当して、地元・福岡を中心に人気を得る。同時にライブ、コンサート活動において博多インディーズ観客動員数1000人の記録を作る。1991年、メルダックレコードよりメジャーデビュー。4枚のアルバムとシングル多数をリリース。現在はインディーズで活動中。2016年には北米及び英国の複数の映画音楽祭に入選している。2014年から毎年12月にTHE KIDSワンマンライブを行っている。2022年には東名阪ツアーを元ARB、現甲斐バンドのギター田中一郎と行った。
桐明は、まず一人でボブ・ディランの名曲でジミ・ヘンドリックスのカバーで有名な「見張り塔からずっと(All Along the Watchtower)」を演奏する。その選曲からは、“めんたいロック”以前、“フォーク”が盛んだった福岡をいまに伝える(!?)。実際、かの“照和”を知っていて、長淵剛とも交流があったという。
ステージはその後、弟の桐明徳、そしてMODERN DOOLZの相馬勇がサポートに入る。当初はドラムスのペペが参加するはずだったが、急病のため、相馬がサポートすることになった。こんな“仲間思い”も福岡らしい。桐明は“35年やってきたバンドを残りの人生をかけてやっていきたい”という。そんな心意気を持つバンドマンがたくさんいるのが福岡の音楽シーンだろう。ライブそのものはベテランらしい遊び心と華やかな雰囲気がまるで地方局の音楽番組を聞いている感じだ。とてつもなく安心感がある。この辺は福岡の口達者な先輩を彷彿させる。的外れな指摘かもしれないが、かのデイブ平尾を想い起こす。恰好良くて、茶目っ気がある。わかる人はわかるだろう。音楽的にもバラエティー豊かながらも福岡のバンドらしいビートのスピリッツが宿る。一本、筋が通っているのだ。改めて、HIDEが彼を呼んだ意図みたいなものを感じさせる。
「MODERN DOLLZ」
桐明のパフォーマンスで和んだところ、午後3時30分のヒーローの登場。いい意味での緊張感と華美なまでの贅沢さを高塔山のステージへ持ち込んだのは「MODERN DOLLZ」である。1978年に福岡でバンド結成。福岡でのライブ活動の他、TV出演、ラジオDJ、定期的な東京ツアーを行う他、ビブレホールや都久志会館などで定期的にワンマンライブを開催。1986年6月「Do Imagination」発売。1991年1月「DANDY! FRENZY STORY!」発売。2001年に中心メンバーだった佐谷光敏(Vo)が永眠。2010年 MODERN DOLLZ活動再開。東京、福岡などライブを中心に活動中。2016年~2022年 未発表音源・映像集「THE UNRELEASED TRACKS」シリーズvol.1~3を発売している。現在のメンバーは佐藤耐二(Vo)、松川泰之(G)、G:平山克美(G)、入交一成(B)、相馬勇(Dr)である。
グラマラスなヴォーカル、佐谷光敏を擁したバンドで、苣木寛之や梶浦雅弘もかつて在籍していた。“めんたいロック”の老舗バンドである。現在は前述通り、佐谷に代わり、佐藤耐二がヴォーカルを引き継ぎ、活動を継続している。高塔山のステージは13年ぶり。佐谷が亡くなって最初のステージが高塔山だった。そのステージ以来の高塔山になるという。
改めて北九州や福岡のロックシーンを振り返ると、妖艶なルックスとグラムな音が共存するバンドが少なくない。サンハウス(柴山“菊”俊之)、モダンドールズ(佐谷光敏)、UP-BEAT(広石武彦)、南浩二(バラ族)など、錚々たるバンド群が存在する。そんな伝統を現在に引き継ぎ、2023年のグリッターなサウンドを表明する。高塔山にROLLYやNEO FANTASTICなども出演しているが、この流れは止めてはいけない。そんな思いを改めて宣言しているかのようだ。ヴォーカルの佐藤耐二はステージで佐谷光敏や南浩二の名前を出している。彼らは高塔山にいる――その存在を感じているとも発言している。
「THE GRYDER」
華やかなステージの後は、このフェスの主催者であり、プロデューサーであるHIDE率いるTHE GRYDERが登場。倉掛“HIDE”英彰(Vo、G)、城戸崎博幸(B、Cho)、岩田(Dr、Cho)というラインナップに昨2022年に続き、高塔山に育てられた若きギタリスト、悠弥が加わる。HIDEは“これで俺の「天神解放地帯」が完成する”と言った。10月1日の「高塔山@天神」の際にも「天神解放地帯」という言葉が出たが、改めて説明しておく。1982年、福岡・天神に誕生した「ビブレ21」(後に「天神ビブレ」に名称変更。ビブレ業態の1号店である)。同所は2020年に閉店したが、同店は福岡の流行の発信地でもあった。そこにはビブレ・ホールがあり、シーナ&ロケッツやモッズ、ロッカーズ、ルースターズなど、福岡や北九州を代表するバンドのみならず、全国各地から有名バンドがライブを行っている。同所にはNEW DOBBもいた。1985年~90年代にかけて、このビルの屋上階で「天神解放地帯」という対バン形式によるライブ・イベントが開かれ、博多のロックの第三世代と呼ばれるアクシデンツやアンジー、UP-BEATなどのバンドが多数出演。同所を契機にメジャーデビューを果たしている。
ある種、天神から若松へ、2カ所で開催することで、自らの役目を終える、そんな気持ちもあって、“完成”と言う言葉が出たのではないだろうか。また、“今日、最後に終わったら涙します。みんな、一緒に泣いてくれという気持ちです”という言葉を付け加えた。
そんな言葉を残し、思いと願いを込め、「プライド」を歌う。改めて「天神解放地帯」をここに再現する、それは彼の心意気や意気地の表れではないだろうか。それをやり遂げることこそ、HIDEのプライドだろう。
ルースターズの「Do The Boogie」や「テキーラ」をイメージさせるTHE GRYDER流のR&Bの後、MEENA&THE GRYDERのMEENAも登場し、THEGRYDERに加わる。ステージに華やかさが増していく。当初、予定になかった彼女の出演はシーナ&ロケッツをトリビュートしたいという思いからではないだろうか。
「黒木渚 featuring 森田真奈美 jazz band」(Photo by FBR)
HIDEのステージの後、宮崎日向市出身、福岡教育大学院、英米文学科卒業のジャズシンガー、黒木渚が「黒木渚 featuring 森田真奈美 jazz band」として登場する。黒木渚は音楽家・小説家としても活躍。近年では、ライブプロデュース・アーティストプロデュース・アートディレクター・楽曲提供・ナレーター・ラジオパーソナリティーなど、多方面に活動中だ。福岡教育大学院、英米文学科在学中にポストモダニズムの研究に没頭する傍ら、福岡で音楽活動を始める。卒業後は公務員として市役所に就職したが、音楽の道に進むべく2012年上京。2012年12月にバンド「黒木渚」としてデビュー。2014年4月にバンドを解散し、ソロの黒木渚として活動を始める。2015年に小説家としての活動を始める。2016年には咽頭ジストニアを患い音楽活動を一時休止している。2019年に音楽活動を再開。完全復帰した。以降「音楽と文学と空間」というテーマで活動。2022年8月、デビュー10周年を機に、より自由な活動を求めて、それまで所属していた音楽事務所をやめ、インディーズな活動に入っている。
今回はジャズピアニストの森田真奈をフィ―チャーした編成である。黒木は“ジャズトリオなのにロックフェスにやってきた”と告げる。彼女の登場時間は午後5時を過ぎている。それまで真夏のようだった高塔山も陽が陰ると、とたんに冷気が包む。標高は124メートルと低いが、やはり山だけに一段と温度が下がる、黒木はノースリーブで、見るからに寒そうだが、そんなことをものともせず、軽快に歌い出す。その心意気は潔い。もっともMCでは、そうはいいつつも思わず、彼女の口からは“山は冷えますね”という言葉も出てしまう。当たり前だ(笑)。現在は東京で活動する彼女だが、“めんたいロックの末裔です”と誇らしげに語る。この日はジャズシンガーとしての登場ではあるが、どこか、気取った“JAZZ”ではなく、もっとアクティブでリアリティーがある。どこか、その演劇的なパフォーマンスやや文学的な歌の世界は、椎名林檎を彷彿とさせる。“東京ではロックバンド形態でやっているのにジャズ形態できちゃった”といいつつも、“ロックミュージシャンっぽい曲をやって帰ります”と、伝え、「ふざけんな世界、ふざけろよ」を披露する。そのタイトル通り、“チクショーチクショーふざけんな”という“パンク”なフレーズが歌い込まれた、痛快なナンバーだ。ジャズといいつつも、ひねくれたところがあるというのは“めんたいロックの末裔”ゆえのことか。彼女は“売れるまで福岡には帰れない”と言っていていたが、これから全国的に注目を浴び、案外、早く故郷に錦を飾るという日も近いのではないだろうか。
「N9S feat/KAZYA(Guest.HIDE)」
黒木渚のあとは10月1日(日)の福岡・天神、そしてこの日、10月21日(土)の若松・高塔山と、司会を務める元175RのKAZYAが「N9S feat/KAZYA(Guest.HIDE)」と言うスペシャルバンドを率いて登場する。
KAZYAは北九州市出身。2000年代前半、中高生の間で人気を集めた“青春パンク”の代表的存在、175R(イナゴライダー)の元ギタリスト。2003年にメジャーデビューし、2作連続のオリコン1位や紅白歌合戦、日本武道館公演や代表的なロックフェスへの参加など様々な経歴を持つ。現在は拠点を地元・北九州に移し、Drunk!等の音楽活動だけではなく、まちづくりイベントなどにも積極的に関わっている。今回の高塔山では、昨年、彼がSHOGO(175R)とともに関わった『北九州音楽(ロック)大全集』。そのN9S MUSIC PROJECTメンバーらとともにライブパフォーマンスを展開する。
KAZYAは“寒くなってきたので、温まっていきましょう”と、客席にメッセージする。そして、“ここで必要なバンドで、出ていないルースターズのカバーをします。用意はいいですか?”と告げる。観客も歓喜の拍手と歓声で応える。「テキーラ」や「恋をしようよ」、「Do The Boogie」、「GIRL FRIEND」など、“THE ROOSTERS CLASSICS”を畳みかける。桐明孝侍や佐藤耐二なども加わり、『N9S feat. KAZYA (Guest HIDE)』としてフェスを盛り上げる。北九州の音楽ファンにとってはいずれもアンセムというナンバーばかり。改めて、その存在の大きさを再確認せざるを得ないだろう。客席も一気にヒートアップしていく。
「SHEENA and THE ROKKETS 」
MCのKAZYAはそんな熱狂のステージを終えると、2023年のROOSTER達はステージから消える。10数分後、セットチェンジを終えると、再びKAZYAがステージに登場。“とりを務めるのは今年もこのバンドです、シーナ&ロケッツ”と、叫ぶ。会場が暗転、シナロケのバンドロゴがステージの屋根に投影されると、カウンダウントとともにメンバーが登場し、「バットマンのテーマ』が演奏される。そこには澄田健(G)、穴井仁吉(B)、金崎信敏(Dr)が立っていた。その演奏に続き、3人にLUCY(Vo)が加わり、「スウィートインスピレーション」を歌う。
LUCYは同曲に続き。「ロックな好きなベイビー」を歌い終えると、“今日は高塔山でやれることが嬉しい。去年のいまごろはここにお父さんがいて……まだ、いなくなったことが信じられないけど、身体がないだけで、心はいつも一緒っち、シーナだったら言いよるよ。今日は数奇な巡り会わせで1996年のメンバーが揃ってくれて。シーナと鮎川誠が引き合わせてくれたと思って。こんな一生に一回あるかわかんないメンバーでお送りします。金ちゃんがオリジナルで叩いた「ジャングル・オブ・ラブ」を聞いてください”と告げ、同曲を演奏する。金崎は同曲のシングルヴァージョンで、ドラムを叩いている。この金崎と穴井というメンバーはシーナ&ロケッツの90年代後半を支えたリズムセクションである。実は、2021年7月9日に現在は郷里の熊本でスタジオを営む金崎信敏のために、穴井と鮎川が熊本の彼のスタジオへ行き、ルーフトップでライブを行っている。実は、その日は熊本震災によって被災した金崎のスタジオ「熊本ロック会館_STUDIO NOOK」の復興の日でもあった。「ビールスカプセル」を演奏している。何かの予兆だったかもしれない。ちなみにこの日、奈良敏博(B)と川嶋一秀(Dr)は8月14日(月)に福岡「CB」で開催された「鮎川誠追悼ライブ福岡<音楽葬>」に飛び入り出演したロメル・アマードが主催するイベント「11th ROCK’N ROLL JAMBOREE 2023(第11回 ロックンロール・ジャンボリー鮎川誠メモリアル特別編)」に出演するため、神戸の「チキンジョージ」にいた。
同曲に続き、「ロケットライド」、「STIFF LIPS」、「たいくつな世界」、「レイジークレイジーブルース」。「レモンティー」……と、怒涛の如く名曲達を披露していく。
LUCYは“シーナ&ロケッツの新しいアルバム、10月5日に『1979DEMO』 をリリースしました。今日は1996年のメンバーと一緒にやれたし、去年はここにお父さんがいたし、いまは、身体はないけど、一緒にいるし、心はひとつだし。タイムトリップみたいにいろんな時代が一緒に集まって……それがお母さんが言っていた<ロックの魔法>なのかなと思います。今日は高塔山、ありがとう。今日ここで出来て、HIDEが毎年、お母さんが作ったイベントを毎年続けてくれて、本当に感謝しています。今日はみんな、ありがとうございます。それじゃ、最後の曲です。You May Dream!”と告げ、「You May Dream」を歌い出す。まさに夢のような光景が目の前に繰り広げられる。ストーンズが18年ぶりの最新スタジオ録音アルバム『Hackney Diamonds』を出した記念すべき年にシーナ&ロケッツのニューアルバムが出る。偶然かもしれないが、運命のいたずらか。まさに僥倖だろう。この日、高塔山には鮎川誠もシーナも来ている。再び、ロックの神々がかの地に舞い降りたのだ。山の上では、奇跡が起こる。
同曲を終えると、メンバー紹介がされる。当然、そこには鮎川誠もシーナの名前もあった。彼女だけでなく、その場にいる誰もがその存在を感じていたのではないだろうか。“6人”はステージから消える。
アンコールを求める拍手と歓声は鳴り止まない。数分後、メンバーがステージに登場する。LUCYは観客へ“ありがとう”と感謝を伝え、“デビューシングル、聞いてください。「涙のハイウェイ」”と告げ、同曲を披露する。観客は歓喜に身体を震わせ、拳を上げる。
同曲を終えると、LUCYは再び、“ありがとう、高塔山。来てくれて、ありがとう。元気でね”という言葉を残し、彼らはステージから消える。しかし、当然の如く、観客はアンコールを求める。再び、ステージに登場すると、この日の出演者に声をかけ、ステージに呼び出す。MODER DOLLZの耐二やTHE KIDSの桐明、THE GRYDERのHIDE、KAZYAなどがステージに上がる。高塔山野外音楽堂のステージが人で埋まる。LUCYは“みんな、歌えるやろう。せいの、みんな言って、I Love You!”――と叫ぶ。
「I Love You」を出演者全員で歌う。それはまるで盛大なフィナーレであり、天にいるものへ届けよとばかり、大きな声をあげる。歓喜の歌にその場は包まれる。急激に温度は下がったが、演奏奏者と観客の熱気は上がる。光の回廊が天から地へと伸びる。それを作ればやって来る――この夏、HIDEの抱いた予感と希望と願いと思いは可視化される。そこには鮎川誠もシーナもいた。佐谷光敏や南浩二もやってきた。そしてロッカーズ、元シーナ&ロケッツ、元横道坊主の橋本潤も来ていた。その場にいたものは、彼らの存在を感じたはずだ。
同曲を終えると、澄田はマイクに向かい、“はい、これにて終了。また、来年、会いましょうね”と言葉を残す。
シーナ&ロケッツ&フレンズがステージから消えると、興奮と歓喜が冷めやまない中、HIDEとKAZYAがこの日を締めるため、ステージに上がる。KAZYAは“最高のステージで締めさせていただきました。最高の演奏をみんな、してくれました”と、感動で震える声で語る。北九州のロックの歴史をまとめた「北九州音楽(ロック)大全集」に関わった彼だからこそ、このステージの意味を知り、そこに繋がる歴史という轍がはっきりと見えていたのではないだろうか。“天神でやったけど、やっぱり高塔山は違います”と語る。
HIDEは“ありがとう、という言葉しかない”と語る。特に来年のことなどは明言していないが、“基本、頑張るので、背中を押して欲しい”と語る。彼は観客へ“気をつけて帰れよ”と声をかける。「高塔山ロックフェス2023」を終えて、彼が泣いたか、泣いてないかはわからないが、とりあえず、鮎川誠が紡いだ下北沢、久留米、福岡、北九州という“四都物語”の最終章である。
鮎川誠の音楽は生き続け、それを演奏するものがいる。この11月23日(木・祝)には、シーナ&ロケッツとは関わりの深い「新宿LOFT」で。“結成46周年突入とシーナの誕生日”を祝してイベント『SHEENA's 46th BIRTHDAY LIVE ─シーナ&ロケッツ 46回目のバースディライブ─』が行われる。LUCY、奈良俊博、川嶋一秀、そして澄田健とともに永井"ホトケ"隆、鈴木茂、アキマツネオ、長谷川正(Plastic Tree)、Johnny Diamond(首振りDolls)など、たくさんのゲストが加わる。“今年も新宿LOFTでロケット発射!”である。
LUCY、奈良、川嶋、澄田という4人でシーナ&ロケッツを続けていくこと、彼らなりに葛藤や不安もあるだろう。しかし、この物語は、まだまだ、続きそうだ。どのように広がり、どんな結末が待っているのか。いまはわからない。しかし、彼らがいる限り、このロックンロールという旅には終わりはなさそうだ。
いずれにしろ、この物語には、新たな章が書き加えられることになるだろう。彼らの意志を引き継ぎ、それが形として残る限り、新たに加筆されていく。それが“新”になるか、“続”になるか、わからないが、きっと新しい物語は始まる。HIDEがこの夏、高塔山で見た“幻”は“幻”ではない。“それを作れば彼はやってくる”――。
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