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FUKUOKA BEAT REVOLUTION

UP-BEAT現象、再燃!――高崎ライブリポート&『BEAT-UP ~UP-BEAT Complete Singles~』インサイドストーリー

UP-BEATが歴史に杭打つ破格のロック・バンドであることを広石武彦自らが証明してみせる!



漸く時代がUP-BEATに追いついた――この日、7月23日 (土)に群馬県・高崎「CLUB Jammer's」で行われた“ツアーファイナル”を体験したものなら、誰もがそんな台詞を叫びたくなるだろう。それほど、この日の彼らは特別だった。歴史に杭打つ破格のロック・バンドであることを自ら証明してみせたのだ。


予兆はあった。数年前からUP-BEATの名前がロック・ファンの間から上がり、WEBなどでも彼らの歴史的名盤が度々、紹介されている。広石武彦自身、ソロやTR4とともにUP-BEATのナンバーを演奏するバンドを結成。up-beat tribute bandからRespect up-beatへと名前を変え、各地をサーキットしている。特に派手な宣伝をせずとも多くの観客が詰めかける。


いろんなバンドがヒットチャートをにぎわすものの、二番煎じ、三番煎じの乱立で飽和状態にあるといっていいだろう。そんな中、サウンドもビジュアルもロック本来の恰好良さを体現する彼らが求められたのかもしれない。同時にその楽曲の魅力も人を引き付ける。単なるチャートを駆け上がったヒット曲と言うだけでなく、ある種、時代の風景や心象を描き、人を捉えて放さないポップなキャッチ―さも持ち合わせていた。UP-BEAT自身は1986年にデビュー(1981年に前身バンド"up-beat underground"を結成、1984年にUP-BEATに改名)、1995年に解散と、「イカ天・ホコ天」の“平成バンドブーム”以前、昭和という時代を駆け抜けたBOØWYやザ・ブルーハーツ、レッド・ウォーリアーズ、バービー・ボーイズなどと同期でもある。偶然かもしれないが、彼等もここに来て、再び、脚光を浴びている。レッド・ウォーリアーズやバービー・ボーイズなどは時代の要請か、再結成ライブなども行っている。往時と変わらぬ風貌と音楽で懐古や郷愁ではなく、しっかりと、その存在を主張していた。



幸いなことにUP-BEATのアイコンである広石武彦はロック・スターとしての気品と美貌をいまも保つ。ステージに立つ彼のパフォーマンスは華やかさを纏い、聞くものを魅了していく。元祖ビジュアル系と言っていいかもしれないが、“お化粧系”と揶揄されるものではなく、そのエレガントでグラマラスな佇まいは、かのデヴィッド・ボウイやマーク・ボランなどを彷彿させる。


機は熟したか。この4月27日 ビクターエンタテインメントからUP-BEATの結成40年、デビュー35年、解散から四半世紀余となる2021年、2022年という記念すべき時期に、初めて全シングル18枚38曲が最高音質のSHM-CD仕様にリマスターされて完全収録、さらに生産限定盤は幻の映像も加えた27年ぶりのビクター公式作品『BEAT-UP ~UP-BEAT Complete Singles~』がリリースされた。そして、同作品はオリコン・アルバムチャートのウィークリー37位にランクインしている。UP-BEATそのものは既に解散し、実際に活動してないにも関わらずだ。まさに快挙と言っていいだろう。


そんな勢いのまま、4月30日 (土)東京・大塚「ハーツプラス」、5月30日 (月)タワーレコード「オンライン配信イベント」(※無観客、広石と吉田遊介のみの出演)、6月19日 (日)東京・下北沢「CLUB Que」、7月9日 (土)東京・吉祥寺「ROCK JOINT GB」、7月23日 (土)群馬県・高崎「CLUB Jammer's」という『Respect up beat “TOKYO CIRCUIT+TOUR 2022”』を敢行。日替わりのセットリストで、アルバムの曲順、シングルのB面とアルバム曲だけなど、大胆な曲構成で、毎回、観客を楽しませる。連日の盛況ぶりがネットなどでも盛んに拡散された。


また、6月4日(土)に東京・Spotify O-EASTで開催された、GLAYや氷室京介のサポートでお馴染みのドラマーであるTOSHI NAGAIこと、永井利光のバースデーライブ『TOSHI NAGAI 35th PROJECTS "GO DREAM. GO OVER." ver.40 ~TOSHI 誕生祭特別篇~』。同ライブに広石武彦は綾小路翔(氣志團)、HISASHI(GLAY)、Ju-ken、TOSHI NAGAIとともに一夜限りのスーパーバンド「TOSHI NAGAI BIRTHDAY DREAM BAND!!」を結成。そのヴォーカリストとして活躍する。


さらに6月18日(土)に高崎「CLUB Jammer's」でROGUEの香川誠が主催したイベント『ロックンロール スター千一夜』に花田裕之、池畑潤二、ヤガミトール(BUCK-TICK)、JILL(PERSONZ)、茂木洋晃 (G-FREAK FACTRY)などとともに出演もした。


このコロナ禍において、まさかの躍進ぶりである。ここに来て、UP-BEAT現象が再燃していると言っていいだろう。それを強く印象づけ、確信させたのが先の『Respect up beat “TOKYO CIRCUIT+TOUR 2022”』のファイナルではないだろうか。


開演時間の午後6時を数分過ぎると、ライブのオープニングのSE「WATER SCAPE~記憶の扉~」(アルバム『Weeds & Flowers』収録曲をライブのSEとして再構成、アコースティック・ギターを吉田遊介が弾いている)が流れ、メンバーが登場する。広石武彦(Vo、G)を吉田遊介(G) 、 LEZYNA(G) 、篠田達也(B) 、大島治彦(Dr)という実績も華もあるメンバーが支える。大島は2017年からRespect up-beatに加わったが、佐賀出身で、スマイリー原島が参加したSmiley & The Doctorsとして活動を開始。その後は、PANTA、柴山俊之、泉谷しげるなどと共演。Marchosias Vampのアキマツネオのバンド、AKIMA&NEOSに加入、同バンドはRama Amoebaに発展する……など、広石のバンドのドラムスとしては最強ではないだろうか。


そんな最強の布陣で臨む、今回の『BEAT-UP ~UP-BEAT Complete Singles~』をフィーチャーしたRespect up-beat “TOKYO CIRCUIT+TOUR 2022”の最終公演。広石は開口一番、“ハロー! 群馬!! ファイナルへようこそ!”と観客へ告げ、演奏されたのがいきなり「DEAR VENUS」(『HERMIT COMPLEX』)、そして「HAPPY TV」(『UNDER THE SUN』)、「Mode Insane」(『HERMIT COMPLEX』)と、ポップだけでは終わらない、UP-BEATらしい捻りのある歌詞を持ったナンバーを一気に畳みかける。一瞬にしてUP-BEATの世界に観客を誘うのだ。



広石は福岡に次ぐ聖地、高崎でファイナルが出来たことに浮かれていると言う。実は、それだけでなく、関係者がコロナに罹患し、陽性になってしまったが、幸いなことに彼は検査の結果、陰性になる。そんな解放感もあり、浮かれているらしい。浮遊感を抱いたまま、「Weeds & Flowers~最後の国境~」(『Weeds & Flowers』)、「ANGEL'S VOICE」(『Weeds & Flowers』)、「VANITY‐憂いの君‐」(『IMAGE』)、「SUMMER TIME BLUES」(BIG THRILL)……と名曲が続々と披露されていく。


そして「SUMMER TIME BLUES」を歌い終えると、“SUMMER TIME BLUES”だけに思わず、暑いと声が出る。観客の熱気が会場の暑さに反映される。それだけ見るものが歓喜に身体を震わし、弾んでいる証拠だという。


広石とホッピー神山の共作で、メロウな導入からハードに盛り上がる「Wax and wane ~月を売った女神~」(『inner ocean』)が披露される。「UNDER THE SUN」(『UNDER THE SUN』)、「Tears Of Rainbow」(『UNDER THE SUN』)と、UP-BEATの十八番とでもいうべき、疾走感のあるナンバーが続く。ちなみに『UNDER THE SUN』は広石武彦(Vo)、岩永凡(G)、嶋田祐一(Dr)、東川真二(G)と水江慎一郎(B)在籍時代の最後のオリジナルアルバム。次作になる5枚目のオリジナルアルバム『Weeds & Flowers』では東川と水江が脱退し、広石・岩永・嶋田の3人体制となっている。



さらに「Prisoner Of Love」(シングルのみ)、「EDEN」(『IMAGE』)と畳みかける。広石は歌い終えると観客へ感謝を伝え、さらにこのツアーが楽しいものだったことを告げる。何しろ、広石自ら“ボックスセットなのにオリコンへチャートイン”と言うようにUP-BEATがいま、また、望まれていることを確信するに足るものがあるだろう。


それはその歌や演奏に自信を与えている。広石武彦・岩永凡・嶋田祐一・ホッピー神山という体制で作曲した「明日へ」(『GOLDEN GATE』)、往時のような広石のパントマイムが美しくも儚いUP-BEAT世代のアンセム「Blind Age」(『HERMIT COMPLEX』)、西平彰が編曲に加わり、学園ドラマのオープニングテーマに使用された5枚目のシングル「NO SIDE ACTION」、デビューシングルながらオリジナルではなく、柴山俊之と大沢誉志幸の提供曲だったという「KISS...いきなり天国」(『IMAGE』)、UP-BEATの最大のヒット曲にカップリングされる「NEW DREAM ~BAD MOON RISING~」(『inner ocean』)、そして“最後の曲です”と告げ、広石、岩永、嶋田、東川、水江という5人体制での最後のシングルで、ビートリーなナンバー「Rainy Valentine」で“本編”を締めくくる。まさに一気呵成、圧巻のセットリストである。怖いもの見たさを含め、いろんな意味で聞きたくなる曲たちのオンパレードである。広石は“THANK YOU 高崎”という言葉を残し、メンバーとともにステージから消える。



アンコールを求める大きな拍手とマスク越しの歓声が会場に溢れる。まだ、聞きたい曲はたくさんある、そんな心の声を聞こえてくるのだ。


吉祥寺のライブのアンコールの際にこの曲はシングルではなくても、これだけの曲を作れると誇らしげに告げた「Time Bomb」(『inner ocean』)、そして映像的歌詞が印象的な『UNDER THE SUN』からの先行シングルで8枚目のシングルになる「ONCE AGAIN」が披露された。


再び、UP-BEAT(既にrespect up-beatではなく、UP-BEATと名乗っている)はステージから消える。


広石は“ありがとうございます”と観客に感謝の気持ちを伝えると、“STAND BY ME”のイントロを弾きだす。しかし、同曲を演奏することはなく、次の曲への前振りになる。後藤久美子主演の学園ドラマの主題歌に使用され、UP-BEATの最大のヒット曲になった「Kiss in the moonlight」が始まる。照れを含みつつのパフォーマンスだが、演奏そのものはいかに同曲が観客にとって、大事なものであるかを熟知し、観客の心と身体を捉え、歓喜の渦へと導くものがある。観客が嬉しそうに飛び跳ねているのが印象的だった。



そして、この日はその次があった。広石は“ツアーファイナルは高崎の大先輩と佐久間(正英)さんに敬意を表して”と告げ、BOØWYの「NO. NEW YORK」が演奏される。いきなりの同曲に観客は驚愕と歓喜で受け止める。広石は“佐久間さん、聞こえますか? 佐久間さんヴァージョンでやっています”と天に向かって、呼びかける。同曲は1982年にリリースされているファースト・アルバム『MORAL』に収録されたナンバーだが、1985年にリリースされたアルバム『BOØWY』からのシングル「BAD FEELING」にカップリングされている。同曲は佐久間がプロデュースしている。そんな拘りが広石らしさであり、そこまで佐久間を敬愛しているからこそ、同ヴァージョンでなければならなかった。ツアーファイナルのフィナーレを飾るに相応しい大団円である。猛暑の中の熱い2時間のステージ、そこにいた誰もが大きな満足ととともに改めてUP-BEATというバンドの存在の大きさを再確認したのではないだろうか。


所縁の地(!?)である高崎の「Club Jammer's」で迎えたツアーファイナル。お馴染みの曲から意外な曲、そして高崎の大先輩と佐久間正英に愛と敬意を表した曲まで、変に気負うことなく、自然体で自らの曲を歌う広石武彦を目の当たりにする。UP-BEATの再結成ではなく、改めて自らの曲を見つめ直し、歌いながら更新していく。そこには懐古や郷愁とは違うところへUP-BEATの曲を止揚しようという試みがあるのかもしれない。きっと、それに向き合うには1995年のバンドの解散から2011年から2015年までのup-beat tribute bandを経て、2016年からRespect up-beatを始動……と、30年近い時間が必要だったのだろう。


広石は“このコロナ禍、ひとまず、身を潜める”と言っていた。しかし、この状況が終息したら、改めて派手に動き出して欲しいところ。独立独歩、唯我独尊――が彼らしいのだが、やはり、こんなステージを見てしまうと、大きな花火を打ち上げてもらいたいと思うもの。広石にはRespect up-beat以外にも様々なプロジェクトもある。この手ごたえは本人だけでなく、彼を囲むスタッフやオーディエンスも感じているはず。広石武彦の次のアクションが楽しみでならない。


会場には観客を送り出す音楽として、デヴィッド・ボウイがモット・ザ・フープルに提供した「すべての若き野郎ども」(All the Young Dudes)が流れていた。すべての若き心を持ったKIDS達は、あの日の高鳴りを思い出すとともに、いま、UP-BEATがいるということがどれだけ尊いことであるかを心に詰め込んだはずだ。それが時代と世代を超えて前へと進む力になる。


■写真撮影/北村佳代子


【『Respect up beat “TOKYO CIRCUIT+TOUR 2022”』各公演概要】


①4月30日 (土)東京・大塚ハーツプラス

『BEAT-UP』のDISC-1、2を曲順通りに(「KISS…いきなり天国」から『Weeds & Flowers ~最後の国境~」まで)演奏。


②5月30日 (月)タワーレコード渋谷店B1 CUTUP STUDIO

『BEAT-UP』購入者を対象に往年の店頭ビデオコンサート“キャピタゴン”を無観客の配信形式で復活。特に映像制作にまつわるトーク・コーナーと、ギタリスト吉田遊介とのアコースティック・ライブ・コーナーの2本立て。


③6月19日 (日)東京・下北沢CLUB Que

コロナ禍中、本ツアー初のフル観客ライブ。シングル曲・アルバム曲を織り交ぜた黄金律のセットリスト。今年度のCLUB Que最大動員記録となる。


④7月9日 (土)東京・吉祥寺ROCK JOINT GB

シングル曲を排し、カップリング曲とアルバム曲のみで構成されたキャリア初の試みながら、バンド史上に残る白熱のパフォーマンスとなる。


⑤7月23日 (土)群馬県・高崎CLUB Jammer's

J-ROCKの聖地=高崎での念願のライブ。アンコールではまさかの師・佐久間正英プロデュース版「NO. NEW YORK」カバーまで飛び出した同ツアーの千秋楽。


1. Dear Venus

2. Happy Tv

3. Mode Insane

4. Weeds & Flowers ~最後の国境~

5. Angel's Voice

6. Vanity -brandnew-

7. Summer Time Blues

8. Wax And Wane ~月を売った女神~

9. Under The Sun

10. Tears Of Rainbow

11. Prisoner Of Love

12. Eden

13. 明日へ

14. Blind Age

15. No Side Action

16. Kiss...いきなり天国

17. New Dream -Bad Moon Rising-

18. Rainy Valentine

En.1 Time Bomb

En.2 Once Again

En.3 Kiss In The Moonlight

En.4 NO. NEW YORK


       **********************


『UP-BEATに出会えて、人生が楽しくなった』という共感を共有していくのに『楽しさ』は不可欠だった――助川仁(『BEAT-UP ~UP-BEAT Complete Singles~』プロデューサー)


UP-BEAT現象の再燃、それは間違いなく、この2022年4月27日にビクターエンタテインメントからリリースされたコンプリートシングルボックス『BEAT-UP ~UP-BEAT Complete Singles~』のリリースが契機だろう。同作について、改めてビクターエンタテイメントのHPから引用して紹介しておく。


“UP-BEATの結成40年、デビュー35年、解散から四半世紀余となる2021/2022シーズンに、初めて全シングル18枚38曲が最高音質のSHM-CD仕様にリマスターされて完全網羅! 更に生産限定盤は幻の映像も加えた27年ぶりのビクター公式作品が4月27日に発売されます!! 初回生産限定盤は、当時「REAL BEAT SCENE」の名を冠し、CDショップ店頭やTV放映のみで公開された幻のライブ&ドキュメンタリー映像を初商品化したDVD付きの豪華4枚組ボックス仕様。1987年1月27日に行われた初めての渋谷公会堂ライブ、名匠・佐久間正英プロデュースの傑作2ndアルバム『inner ocean』の制作風景など、これまで入手不可能だった貴重な映像は見逃せない内容になっています。さらに、広石武彦の最新スペシャルインタビューと全時代の写真を多数掲載した別冊ブックも付属。四半世紀ぶりのリリースに相応しい、ファン必携の作品!!”という破格のコレクションである。そのプロジェクトの中心的存在として関わったのが現在、ビクターエンタテイメントのストラテジック部企画編成グループ/ゼネラル・マネージャー、助川仁だった。少し長くなるが、プロフィールを紹介しておく。助川は“1967年6月20日生まれ。神奈川県出身。1990年、早稲田大学第一文学部フランス文学専修卒業後、同年、ビクター音楽産業(現・株式会社JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント)に入社。キャピタゴン制作運営、関西・関東甲信越エリア宣伝担当、アーティスト担当プロモーター、制作ディレクター等を経て現在、ストラテジック部企画編成グループ/ゼネラル・マネージャー。制作担当アーティスト歴はTULIP、荻野目洋子、夏川りみ、BUGY CRAXONE、KOKIA、paris match等”……錚々たるアーティストに関わってきたミュージックマンだ。彼に今回の発売の経緯、意図などを聞かせてもらった。



――UP-BEATのビクター在籍&活動時代に彼らとの関りはいかがでしょうか。

「入社した90年が3人体制初作品『Weeds & Flowers』のリリース年。新入ほやほやで制作・運営を担当した店頭販促用ビデオ『キャピタゴン』のUP-BEAT特集回で、この大傑作と出会い、音楽のすばらしさと先鋭的な映像表現に惚れ込みました。UP-BEATの中後期はエリア宣伝をしており、地方公演やキャンペーン等にも同行させて頂きました。広石さんは当時の自分のことはもちろん!……ご記憶ありません(笑)」


――当時はどのように見ていましたか?

「洋楽の影響を、表面ではなく本質でとらえてオリジナリティへと昇華したバンドとしては、当時から他とはレベルが違うと感じていました。それでいてメンバー全員の華やかな佇まいもあって。特にフロントのボーカル&人気を二分するほどのカッコいいギタリスト。2トップがこれほどそろっているバンドは奇跡的だよなあ、と思っていました」


――もう少し詳しくお聞きしますが、彼らとの仕事では具体的にどのような仕事になるのでしょうか。

「先ずは店頭販促映像の制作・運営でファンにダイレクト・プロモーション。続くエリア宣伝時代には、サンプル盤を抱えて担当各県の地元メディアに行商。地方公演のライブ帯同、本人稼働のキャンペーンやPRイベントなどで関わらせて頂きました。でも、直接の制作・宣伝担当ではなく、その一つ外側のスタッフ・ワークですね」


――逆に言えば、一番、リアルのところを見て来たのではないでしょうか。UP-BEAT結成40周年+デビュー35周年記念になる今回のコンプリートシングルボックスのリリースの契機、経緯は?

「旧知のUP-BEATフリーク編集者から、デビュー30周年のタイミングで何かアニバーサリー企画が出来ないか相談を受けたのが5年前。そこからタイミングと内容を延々模索し続けていました。決め手になったのは、80年代半ば~90年代半ばの邦楽ロック・ファン=当時高校生前後だった方々が40代後半~50代となり、仕事や家庭生活の中でも、だんだんと自分の時間が取れるようになって、きっと改めてかつて自分が好きだった音楽に向き合えるようになっているだろう、という、自分自身同世代としての実感ベースの『読み』がひとつ。シティ・ポップや昭和歌謡ばかりが脚光を浴びているけれど、“いやいや私はバンドを追っかけていた!”という潜在層数も絶対多いぞ!という『確信』がひとつ。YouTubeやSNS環境が、企画を模索している間にかなりの進度で整い、所謂<ファンダム・プロモーション>が実現可能になったと感じた『環境変化』がひとつ。でも、一番の契機は、『あの素晴らしい作品群を残した自分の大好きなUP-BEATは、もっと評価されてもっと売れて良かった』。そういう思いの方がきっと沢山いて、みんながその気持ちを同じ思いの人たちと分かち合いたい、と思っている『熱量』。その熱が解散後27年たっても冷めていないことが前述のUP-BEATフリークの編集者や、広石さんのライブのオーディエンスから感じられ、その思いは自分自身の中にも入社以来32年ずっとあるな、と気づけたから」


――再評価の機運みたいなものは感じましたでしょうか。

「事前に機運を感じたというより、自分の実感した熱量は、きっとUP-BEATがデビューしてから35年以上変わらずにあり、今はただそれが限定されたライブ会場などに『点在』している状態ではないか、と。そこをちょっと周りから見えるところに置いてあげれば、コアなファンはもちろんのこと、『そういえばUP-BEATってカッコ良かったよな、久しぶりに聴いてみたいな』という人たちにも伝わって、そうすると、コアなファンの『でしょでしょ?私たちのUP-BEATってカッコいいでしょ?』という承認欲求が満たされるのに似た嬉しさに繋がって、その連鎖が『点在』から『顕在』に変容して、結果として再評価につながるのではと思っていました」


――同作品のコンセプト、テーマなどをお教えください。また、トークイベントを含め、プロモーションについてはいかがでしょうか。

「『今までありそうでなかったシングル音源の完全収録』・『今までVHSしかなかった映像コンテンツの初DVD化。(これは最終的に、MVのフル配信&YouTube無料公開にシフト)』・『今まで入手不可能だったプロモーション映像の発掘』・『制作意図を余すことなく伝えられるマスタリング技術の進歩』・『未使用カットを多く含む写真コンテンツ』・『広石さん自身によるヒストリー・テキスト』――この6つを組み合わせて、今までの全作品を持っている方から、代表作だけお持ちの方、そして初めて買う方、いずれの立場の方でも全方位的に満足度の高い作品を目指しました。プロモーションは、先ずはTwitterでフォロワー0から立ち上げたSNS発信でとにかくファン・コミュニケーション。トレーラーからMVの順次フル公開まで、ファンの方々共通・共有の場としてのYouTubeの活用。コロナ禍というビハインド状況を、逆に全国どこでも楽しめるオンライン・イベントに発想を転換し、どうせなら懐かしの店頭イベント『キャピタゴン』という、ニッチかつ熱量の高かったコアなイベントをインターネットの時代に復活させちゃう企画にしちゃおう!という同窓会的なアイディア。音楽マスメディアは意図的に外して組み立てました。もちろんお声がけいただいたラジオに出演したりもしましたが、関東・関西それぞれ1番組のみです。音楽というエンタメのいちジャンルではなく、むしろカルチャーサイト『Re:minder』さんやカルチャー誌『昭和45年女』さんといった、当時の文化全体を追体験できる『場』を大切にしました。プロモーションのモットーは『とにかく楽しく面白く』。UP-BEATってシリアスなバンドだったから、当時の宣伝もシリアスというか真面目だったと思います。それが30~40年時間が経った今は、あえて『楽しく伝える』ことが素敵なのではないか、と。ファンの気持ちも、その芯の芯のところは、『UP-BEATに出会えて、人生が楽しくなった』に違いない。それはレーベル側の人間も一緒だよ!という共感を共有していくのに、『楽しさ』は不可欠なコンセプトでした」


――リリース後の反響、手応えはいかがでした?

「おかげさまで、現存しないバンドの再結成企画でもない作品がオリコン・ウィークリー37位という、予想以上の反響を頂きました。ファンの方から多くの感謝の言葉を頂戴しましたが、こちらこそ感謝の気持ちでいっぱいです」


――今回のRespect up-beat の公演を見られていかがでしょうか。

「やっぱり80年代~90年代のロック・スターは違います。広石さんにはあのカッコ良さに円熟味も加わって、ちょっと茶目っ気も加わって、素敵ですし、それを支えるバンド・メンバーの一体感も素晴らしいと思います。そして何と言っても全く風化しないUP-BEAT楽曲の数々! ライブ演奏が曲の持ち味を膨らませている場面も多く、個人的には後期楽曲の魅力の再発見が多いです」



助川の言葉からはUP-BEATへの深い愛とともに改めて楽しむこと、熱意や感謝を伝えることの重要性を再確認する。当時のUP-BEATでは考えられなかった戦略かもしれないが、これが40年後のリアルというものだろう。おそらく、ファンダム的な発想は、ミーハーを忌避し、より音楽的であろうとしていたことを考えれば、当時はなかった発想だ。逆に言えば、彼らのファンはミーハーな気持ちだけでなく、ちゃんと音楽を聞き、その素晴らしさを認識していた――そんな再評価もして欲しいと心の奥底で思っていたはずだ。そんな中、『BEAT-UP ~UP-BEAT Complete Singles~』が届けられた。ここ数年、こんなにもファンに愛されたボックスはないのではないだろうか。そうなると、今後のリリースや広石のソロやバンドの活動も気になるところだが、彼は“予定は未定です”とつれない(笑)。その瞳の奥を探る……と、もしかしたらを期待したくなる。



UP-BEAT 40周年plusプロジェクト(ビクターエンタテインメント公式)


ビクターエンタテインメントアーティストページ UP-BEAT


『BEAT-UP ~UP-BEAT Complete Singles~』トレーラー


広石武彦Official Web


広石武彦YouTube公式チャンネル“Ism.T”


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