
先週、10月13日(日)に東京・荻窪のライブハウス「TOP BEAT CLUB」で行われた「arrival of autumn」。アカネ&トントンマクートとしては久しぶりの東京公演になる。2023年9月12日(火)の東京・高円寺「JIROKICHI」以来だろう。
この1月26日(金)に埼玉・所沢「モジョ」で下山淳(G、Vo)、穴井仁吉(B、Vo)、延原達治(G、Vo)、茜(Dr,Vo)に澄田健(G、Vo)を加え、“MOJO RISING ”として出演、さらに5月19日(日)には同じく埼玉・所沢「モジョ」で開催された『下山淳 生誕祭』でアカネ&トントンマクート(茜・下山淳・穴井仁吉・延原達治)をベースにスペシャルゲストにDr.kyOn(Kb、G、Vo)と澄田健(G、Vo)を迎えてライブを行っているが、東京でのライブは本当に久しぶりになる。
アカネ&トントンマクートとしては「TOP BEAT CLUB」へ“初出演”になるが、各々のソロやバンド、セッションなどでは度々、出演している(昨2023年に開催された延原達治の還暦ライブが同所で行われている)。言わば“HOME”みたいなところ。同所独特の音質や反響なども慣れたものだろう。開演時間の午後7時を15分ほど過ぎ、メンバーが登場し、演奏が始まった。
オープンニングナンバーはデレク・トラックスやロベン・フォード、タジ・マハール、フォガットなどのカヴァーでお馴染み、カンサス・ジョー&メンフィス・ミニーの「シボレー」である。下山がヴォーカルを取る。古いブルースをベースにアメリカーナ仕立てにリメイク。彼らにとっては主題歌みたいなナンバーだろう。演奏する度にメンバーの息と間合いが合い、自分達のものになっていく。

続けて穴井仁吉の隠れた名曲、MOTO-PSYCHO R&R SERVICEの「GOT FEEL SO GOOD」を披露する。アカネ&トントンマクートで度々、演奏されていているが、このメンバーで曲が育っていくのを感じる。穴井の渋いヴォーカルに下山の弾くラップスティールギターが絡まる、と同曲の魅力が引き立つ。下山はこれまで座って、ラップスティールギターを膝に載せて弾いていたが、今回からスタンドにラップスティールギターを載せ、立って弾いている。膝の上だと見えないので、スタンドに乗せたそうだ。デビッド・リンドレーやデヴィッド・ギルモアを彷彿させる。味わい深い演奏である。
そして茜は下山が見つけ出してきたアメリカのインディーズの男女混成バンド、The Jumpsの「TEMPTATION」を歌う。ソウルフルなナンバーをその美声で聞かせる。ヴォーカリスト、茜の魅力が満載である。ドラマーとしてはその活躍ぶりは多くの方に知られるところだが、アカネ&トントンマクートでは強制的(!?)に歌わされることで、歌手としての実力が多くの方に知られることになった。最初は1、2曲だったが、ライブを重ねる度に曲数が増えていくのは、その証明だろう。

同曲の後、今度は延原達治がマディ・ウォーターズの代表曲として知られる「ROLLIN’&TUMBLIN’」を披露する。クラプトンやジョニー・ウィンターなどもカヴァーしている同曲は九州ツアーでお披露目され、大きな反響を得たナンバーだ。白熱のセッション、ギターバトルを繰り広げ、彼らの新生面を伺わせた。ブルースの名曲をアカネ&トントンマクート流にエッジを立て、アップグレードしている。延原はMCで九州ツアーの模様も報告する。いろいろ話しつつも長崎の大村のライブ会場の楽屋にあったロングヘア―やアフロのカツラを穴井に被せて、おもしろ写真を撮影して遊んでいたことを話している。他にも報告すべきことがあるかもしれないが、そんなおふざけぶり、穴井を肴に盛り上がるところが彼ららしい。流石、穴井はかつらをつけてステージには立たなかった(当たり前だ!)。
下山淳は自らのオリジナルでロックンロールジプシーズのアルバム『Ⅱ』に収録された「OLD GUITAR」を演奏。山口洋作詞、下山淳作曲の随分前の曲だが、アカネ&トントンマクートで、その最新版を聴けるのは嬉しいかぎりだろう。
茜がアカネ&トントンマクートのヴォーカリストとして、その魅力を多くの方に知らしめる契機になった「DON’T TAKE MY SUNSHINE」を歌い出す。ソウル・チルドレンの名曲に茜がオリジナルの日本語の歌詞をつけたもので、茜が参加していたズクナシの頃から歌っているナンバーである。自らの太陽とでもいうべき愛すべき人に行かないでと訴えるラブバラードの名曲である。
トントンマクート流に料理したと言えば、ルースターズでお馴染みの「ロージー」のスペシャルダブヴァージョン「ロージーDUB」だろう。無骨なロックンロールが華麗なダブヴァージョンで蘇る。アカネ&トントンマクートのいまのところ、代表曲といっていいかもしれない。

穴井がサンハウスの思い出を語りつつ、平尾中学時代をプレイバック。福岡の会場には同級生も来ていたという。ここで穴井ミニシアターが始まる。長くなるところで延原がほどよく切り上げ、穴井が「オイラ、今まで」を披露する。サンハウスを聞いて育ったリアル福岡人ならではリスペクトとラブが籠った歌を聞かせる。穴井の歌は心の深いところを突いてくる。不思議な魅力である。
そして延原と茜のヴォーカルで「GIMIE SHELTER」が披露される。二人のヴォーカルが官能的に絡まる。悪魔的とでもいうべき歌と演奏は聞くものを魅了して、音の渦に巻き込んでいく。
そして第1部のラストナンバーとして下山が「SO LONG」を歌い出す。いうまでもなく昨2023年にリリースされたジプシーズの新作『Ⅴ』に収録された下山のオリジナル。作曲と作詞を手掛けている。下山流の“HOBO SONG”の名曲。同曲発表から約1年。アカネ&トントンマクートで歌われることで同曲は育っている。ジプシーズヴァージョンとは違う魅力を放つ。第1部の締めに披露される――この位置が定番になりつつある。
そんな同曲を歌い終えると、時間は午後8時40分が過ぎている。開始から1時間20分。ゆったりとした心地良い時間が流れていく。今日も長い夜(長丁場!?)になりそうだ。
10分ほどの休憩後、第2部が始まる。特徴的な下山のギターイントロから始まり、延原が低い声で歌い出す。下山のベストワークの一つである泉谷しげるの「春夏秋冬」である。いま、「春夏秋冬」といえば定番は下山がギターを弾くこのバージョンだろう。
トッド・ラングレンを始め、スイングアウト・シスター、マンハッタン・トランスファー、プリンスなど、多くのミュージシャンがカヴァーしているデルフォニックスの名曲「La la means I love you」。そんな誰もが知る名曲を茜が見事に歌いこなす。軽く歌っているようでずしりと重く、聞くものを虜にしていく。
続いて穴井がドクターフィールグッドのカヴァーでも知られるウィリー・ディクソンの「VIORENT LOVE」で、渋い声を披露。アカネ&トントンマクートで全員が歌うとルールの元に歌うことに慣れたのか、隠れていた才能が開花したのか、いい意味でのメンバーの中で違和感をかもし、彼らしい個性と魅力を発する。そんな自信からこの2月17日(土)には所沢「モジョ」で武藤修平をゲストに招き、ベースの弾き語りというソロライブを行っている。来年早々にもソロライブを予定しているという。Th eROCKERSでデビューして40数年、こんな自分を当時は想像もできなかったのではないだろうか。
そして下山がジョニー・キッド&ザ・パイレーツの英パブロックの古典にして名曲「SHAKIN’ ALL OVER」を披露する。この辺の選曲もアカネ&トントンマクート仕様。いい意味でのバンドの使い分けも彼らしい。
延原は元レフト・バンクのマイケル・ブラウンがイアン・ロイドらと結成したストーリーズの大ヒット曲「ブラザー・ルイ」(オリジナルはホット・チョコレートで、ストーリーズは同曲を1973年の全米No.1にしている)をカヴァー。ストーリーズはその後、『Traveling Underground』というプログレ大作をリリースしている。「ブラザー・ルイ」は数多のカヴァーがあるが、彼らはソウルな名曲に仕立ている。“多様性”を持ったバンドだった。アカネ&トントンマクートでは延原のソウルフルなヴォーカルが際立つ。彼の黒い歌も聞きどころである。

茜はローリング・ストーンズもカヴァーしたバーバラ・リンの「OH!BABY」を歌い、聞かせる。可憐さと優雅さがある。アカネ&トントンマクートのソウルショー的な展開と言ってもいいだろう。九州ツアーでも披露されている。
続いて、アカネ&トントンマクートでは初披露になるダムドもカヴァーした「JET BOY JET GIRL」を下山が楽しそうに演奏する。パンキッシュなナンバーを溌溂に歌うなど、新たな下山淳の魅力が炸裂だ。同曲自体は先月、10月2日(水)に下北沢「CLUB Que」で開催された「うじき最強セッション@CLUB Que 30年をぶっとばせ!」で披露されている。下山は仲野茂(Vo)、Captain HookのMARCH(B)、頭脳警察の樋口素之助(Dr)、そして下山(Vo,G)というラインナップで演奏している。既にSNSなどで同曲を演奏したことは知れ渡り、その曲をアカネ&トントンマクートでの披露に会場は沸き立つ。
延原はお馴染み山善の「キャデラック」を披露。同曲については説明不要かもしれないが、この6月には下山を除く延原、穴井、茜に石井啓介(Kb)、澄田健(G)というラインナップで“YAMAZEN&The 幌馬車”として東京・横浜・福島というツアーを行っている。ある意味、その報告のような演奏でもある。
穴井はフリートウッド・マックの「ONLY YOU」を歌う。ピーター・グリーン在籍時のブルージーな時代のマックのナンバーである。穴井の太く深い歌は渋いブルースに嵌る。低音の魅力というのだろうか。ある意味、前述通り、アカネ&トントンマクートは全員が歌うというバンドの“掟”はヴォーカリスト、穴井仁吉を育てているといっていいだろう。
渋いブルースの後は心躍るロックンロールが繰り出される。延原はストーンズの「Midnight Rumbler」を披露。同曲の呪術的で祝祭的な空間が再現される。まさに会場はいかしたホンキートンク、興奮の坩堝。数多の会場で観客を虜にしてきた。そして、そんな興奮状態のまま、お馴染みルースターズの「DO THE BOOGIE」を投下する。下山と延原の歌と演奏の掛け合いは、興奮と熱狂を生み出す。ステイタス・クォーやフォガットのライブを彷彿させる(と、言って、どれだけの人がいるかわからない!?)。ブギー天国。ブギウギ中毒にしてしまう。そんな余韻を残し、メンバーはステージから消える。既に時計は午後10時を指している。

当然、アンコールを求める歓声と拍手は止まない。メンバーは数分後、再び、ステージに戻って来る。下山はジミー・リードの曲に柴山“菊”俊之が歌詞をつけていると告げ、BLUES LIONの「BRIGHT LIGHTS,BIG CITY」をブルージーな歌声で聞かせる。アカネ&トントンマクートしては初披露になる。
続けて、お馴染み、ロックンロールにケイジャン風味をまぶした「ボントンルーレ」を下山が畳みかける。アルビノのブルースギタリスト、ジョニー・ウィンターの同曲に下山が日本語の歌詞を付けたナンバーである。
さらに久しぶりの披露になるシーナ&ロケッツの「ユ―メイドリーム」を延原が歌う。鮎川誠やシーナへの敬意と愛情が溢れるキュートな歌と演奏を天まで届ける。
延原は“本当、久しぶりのトントンの東京でのライブ、たくさん見に来てくれて、ありがとう”と、感謝を告げ、下山が最後の曲を披露。最後の曲はこのところ、アンコールの最後というのが定位置になりつつあるニール・ヤングの豊潤なる音の収穫「ハーヴェスト・ムーン」である。下山の歌だけでなく、彼の声に茜や穴井、延原の声が重なり、ハーモニーを奏でる。これまで度々、同曲を演奏してきたが、アカネ&トントンマクート版の「ハーヴェスト・ムーン」の完成形ではないだろうか。改めて曲とは歌われ、演奏されることで育っていくものだと再確認する。
メンバーがステージから去ったのは午後10時30分を過ぎていた。休憩を挟んで3時間近いライブパフォーマンス。3時間ライブというと、山下達郎か、レッド・ツエッペリン(例えが古く、申し訳ない!)か、と思われるかもしれないが。緩く、ゆったりした時間が流れるのはアカネ&トントンマクートらしさかもしれない。心地よい時間が過ぎていく。
10月13日(日)に東京・荻窪「TOP BEAT CLUB」で行われた「arrival of autumn」は、この6月の福岡・長崎・熊本を回った九州ツアー「SUMMER FEELING!」の集大成にして、+αとでもいうべき“新機軸”を加えている。まさに彼らの最新版ではないだろうか。お馴染みの楽曲は練り込まれ、こなれてくる。初出の楽曲はアカネ&トントンマクートとしての新たな魅力を放ち、その可能性を感じさせる。茜を覗けばベテラン揃いのバンドながらその“伸びしろ”充分にあることは驚愕すべき。各人が卓抜した技量と豊富な音楽体験を持つ。その組み合わせ、混ざり合いは無限大かもしれない。この夏に九州ツアーを終え、大きな山を登り切り、この秋はゆっくりと活動のスピードとペースを緩めるかと思ったら、そうでもないようだ。
バンドは進化と深化のらせんを辿り、節目節目にその成長の証を見せてくれる。3時間を超える長丁場ながら“穴井劇場”を楽しませつつもしっかりと、アカネ&トントンマクートの音世界を披露してくれる。
次に彼らが何をするか、どんな音を聞かせてくれるか、興味深々である。秋を感じる間もなく、冬に突入しそうだが、アカネ&トントンマクートの冬のモード、早くも次のライブが見たくなるというもの。まだ、そのことに気づいてない方もいるかもしれないが、見逃していけないバンドである。“彼らの旬?”は問われれば、“今でしょう”と答えたくなるが、“いつも”と言わざるを得ないのだ。是非、彼らのライブに足を運び、それを確認して欲しい。


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