撮影:渡邊一生
かつて、“バンドブーム”という“流行”があった。1980年代後半から90年代前半にかけて、数多のバンドがデビューし、世間を騒がした。そんな時代を象徴する音楽雑誌が『BANDやろうぜ』(宝島社)だろう。1988年から2004年まで発行されていた。もし、休刊になっていなければ今年は創刊35周年になるそうだ。元々は、当時は若者向け生活情報誌&ポップカルチャーマガジンだった宝島の同題のバンド特集の大ヒットがスタートになっている。BOØWYやレベッカ、ストリートスライダーズ、バービーボーイズ、ザ・ブルーハーツなどのブレイク、ラフィンノーズ、ウィラード、有頂天など、インディーズ御三家が注目され、熱狂的に支持されたインディーズブーム、“平成”の到来とともに“イカ天・ホコ天”を端緒に社会現象化するバンドブームが起こった。そのブームがそれまでの流行と違うのは男女問わず、ただ、聞くだけではなく、自ら楽器を手に取って、“バンドやろうぜ”というのが合言葉になったこと。メンボ(メンバー募集)やインディーズ(自主制作)という言葉は遍く知られるようになり、実際、いろんな街にバンドブームがやってきた。それまでマイナーでマニアックだったものが一躍、メジャーでスタンダードなものになっていった。
そんなバンドブームにフォーカスしたイベントが「大人のためのミュージックステーション」を標榜する東名阪のラジオ3局(ニッポン放送・TOKAI RADIO・FM COCOLO)がプロデュースし、“AOR(=Adult Oriented Radio) NETWORK” がオーガナイズする『バンドやろうぜ ROCK FESITIVAL THE BAND MUST GO ON!!』である。既に休刊になった『BANDやろうぜ』の35周年はこじつけだが、バンドブームはSNS以前の世界、音楽愛溢れる音楽雑誌や大いなる志を抱くラジオステーションが支えていた。
このイベントに出演するZIGGY やJUN SKY WALKER(S)、RESPECT UP-BEAT、GO-BANG'S 、 PERSONZ、岸谷香、 筋肉少女帯など、6バンド、1アーティストはバンドブームのサバイバーである。既にブームから30年以上が経ち、メンバーそのものも50代、60代になろうとしている。しかし、彼らは現役であり続ける。昭和歌謡やシティポップブームに安易に乗ることなく、独自の地盤を築き、いまも多くの観客を集める。その継続する意志と的確な戦略は天晴と言っていいだろう。
むしろ、かつてファンだった方たちは、そんな状況を知らず、忘却の彼方にあるのではないだろうか。また、ライブハウスなど、このコロナ禍もあったが、オールスタンディングで2時間以上、立ちっぱなしという状況がライブから遠ざけてもいた。それが今回、大阪、名古屋、東京の会場、ZEPPはすべての券種が指定で、席が用意されている。それだけでも臆することなく、久しぶりに行ってみたくなるというもの。かつて胸焦がし、心を熱くしたバンドたちとの再会。そんな機会がこのイベントである。
その第一弾である大阪公演は既に8月12日(土)に「Zepp Osaka Bayside」で、ZIGGY やJUN SKY WALKER(S)、 RESPECT UP-BEATが出演して、行われている。会場は大阪府大阪市此花区にあるライブ会場・コンサート会場。収容人数は、スタンディング時2,801人、椅子使用時1,198人だという。最寄り駅はJR ゆめ咲線「桜島」。同駅より徒歩4分である。駅名などを出してもどこか、わからない人も多いと思うが、隣駅は「ユニバーサルシティ」である。ワールドクラスのエンターテイメントを集めたテーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」に隣接しているのだ。この日は同じく隣接する大阪・舞洲スポーツアイランド 特設会場で、ELLEGARDENのライブがあった。そのため、同バンドのTシャツを着たバンドキッズ達がたくさん来ていた。同会場へは桜島駅からシャトルバスが出ている。桜島はUSJとELLEGARDEN、「バンやろうぜライブ」の観客でごった返していた。開場時間の午後5時を過ぎ、開演時間の6時に近づいても長蛇の列が途切れない。放送局でもやれることはある。地道な宣伝や告知が確実な集客や動員に繋がるのだ。
会場に入ると、すべての席が観客で埋まる。年齢は総じて高いが、後追いで彼らのことを知ったと思しき若者もいた。いいものは世代や時代を超える、そんな実例ではないだろうか。
午後6時過ぎ、FM COCOLOのパーソナリティーで、この日のMCを務めるちわきまゆみがステージに登場。今回のイベントの趣旨を説明する。バンドブームを後押ししたのが『BANDやろうぜ』で、この日、会場限定の『バンドやろうぜ』特別編集版(32P)が配布されることを伝える。さらにこの日のタイムテーブルを案内し、最後にはスペシャルがあることを告げる。
最初にステージに登場したのは今回、大阪だけでなく、名古屋、東京と、全公演に出演するJUN SKY WALKER(S)。宮田和弥(Vo)、森純太(G)、小林雅之(Dr)のオリジナルメンバーにサポートとしてROCK'N'ROLL GYPSIES、POT SHOTの市川勝也(B)が加わる。
どのバンドも最高のセットリストを揃えてきたと、ちわきまゆみが言っていたが、まさにその言葉通り。いきなり1988年にTOY'S FACTORYTからリリースされた彼らのファーストシングル「すてきな夜空」を演奏。そして、メジャーデビュー前、1987年に宝島社のインディーズレーベル「CAPTAIN」からリリースされたデビューアルバム『J(S)W』に収録された「MY GENERATION」を畳みかける。自らの世代を歌ったアンセムのようなナンバーだ。2曲とも彼らにとっては原点ともいうべきもので、出し惜しみすることなく、名曲を披露して行こうという気概のようなものを感じさせる。基本的に一バンド、持ち時間は40分と決まっている。直球勝負のステージと言っていい。
その後も「風見鶏」(『歩いていこう』収録)、「声がなくなるまで」(『ひとつ抱きしめて』収録)など、初期の名曲を惜しげもなく披露する。当時、“ビートパンク”と言われた彼らだが、性急な曲だけでなく、ちゃんとミディアムスローのナンバーも用意している。それがジュンスカの優しさだ。
そんな中、デビュー35周年シングル「そばにいるから」、そして同曲にカップリングされた数々の名曲のフレーズを散りばめ、セルフオマージュするという、「歩いていこう」を意識した新曲「もう一度、歩いていこう」も披露される。単なる懐古ライブにせず、35周年ライブにしていこうと言う拘りでもある。新旧の曲を違和感なく、聞かせると同時にこれまで応援していたファンへ感謝を告げつつ、彼らに寄り添おうとする。こんな曲が生まれるのは、彼らが現役である証拠だろう。これからもともに歩んでいこうと呼びかける。当たり前のことだがそんな姿勢は昔から。いい意味で変わらないのが彼ららしいところ。
また、最後は「START」、「全部このままで」という、誰もが知る初期の名曲で締めるところがファン思いのジュンスカならではと言っていいだろう。
宮田和弥はMCで“オールスタンディングではなく、ちゃんと席があるので、嬉しい”と語る。年齢を重ねたファンにとって、椅子があることがいかにありがたいか。いうまでもないことだろう。ところが、座ることを躊躇わせる曲ばかり(笑)。結局、椅子がありながらもオールスタンディングには苦笑させられるが、同調圧力ではなく、思わず、立ってしまうという曲なら、それは自然でいいのではないだろうか。
既にそのキャリも35年になるものの、常に色褪せず、新鮮である。また、オリジナルメンバーは還暦直前、それにも関わらず、スリムな体形を維持し革ジャンとサングラスが似合うというのも羨ましいというか、おなかの出っ張りが気になるものには、いい目標になるだろう。この機会に改めて、現在進行中の彼らの35周年ツアーに参加したいと思う方も多いはず。そのための最高のショーケースとなったはず。
宮田和弥が演奏を終え、ステージを去る際に、ZIGGYの「BURNIN' LOVE」をアカペラで少しだけ歌ったことが話題になっているが、そんな和んだ雰囲気もこのイベントならではのものかもしれない。
二番目に登場するのはRESPECT-UP-BEATである。オリジナルメンバーは広石武彦(Vo)のみだが、このバンドはUP-BEATの同窓会的な再結成ではなく、自らの楽曲をいかにブラッシュアップし、現時点での最適解を目指し、アップグレードしていくために結成された。広石武彦を吉田遊介(G)、LEZYNA(G)、篠田達也(B)、大石“RALF”尚徳(Dr)という腕に覚えありのメンバーが支える。LEZYENAとRALFは大阪出身のバンド、JUSTY-NASTYのメンバー。大阪だから彼らにしたとMCで語る。
UP-BEATは1986年にシングル「Kiss…いきなり天国」でデビューしている。バンドそのものは1981年に福岡県北九州市でUP-BEATの前身バンド、UP-BEAT UNDERGUROUNDが結成されている。同バンドは広石の同級生で、後に映画監督になる青山慎治(昨2022年3月21日に亡くなっている。享年57。合掌)がいた。1984年にUP-BEATと名前に変えている。ジュンスカが1988年、ZIGGYが1987年にメジャーデビューと、年齢的には同年代ながらキャリア的には先輩になる。ロック年表的にはイカ天・ホコ天以降のバンドブームに先駆け、BOØWYやレベッカ、ザ・ブルーハーツ、RED WARRIORSなどとともにロックバンドのメジャー化に貢献したバンド群に捉えられる。GLAYが彼らの影響を公言し、後に共演などもしていることは有名だ。
それにしてもこの日のセットリストは圧巻である。名曲達をメンバー紹介以外はMCもなく、一気に聞かせるのだ。改めて、この日、演奏された曲を明記しておく。「kiss...いきなり天国」「Dear Venus」、「Rainy Valentine」、「Blind Age」、「no side action」、「Time Bomb」、「Kiss in the moonlight」……最初から最後まで、まるでシングルのA面コレクション(当時はアナログは若干あるものの、基本はデジタルリリースだった)の趣きだ。1曲目に「Kiss…いきなり天国」を持ってきたのはデビューシングルというのもあるが、大袈裟な表現になるが、バンドブームの正体を自ら暴いてみせているかのようだ。同曲は彼らのオリジナルではなく、作詞は柴山俊之、作曲は大沢誉志幸(当時の表記)である。いわゆる“売れ線”を狙ったもので、バンドブームに当て込み、一発あててやろうという事務所やレコード会社の魂胆が見え隠れする。自分達がやりたいことを好き勝手にやるまでは、ほんの少しだけ、時間が必要だったかもしれない。
勿論、同曲以降は好き勝手に作る(というか、自らが考えるロックを忠実に作る)ことができている。特に「Kiss in the moonlight」は同じ、“Kiss”絡みでも彼らが考えるメッセージと音楽性と大衆性の均衡が取れたもので、テレビドラマの主題歌という“タイアップ”もあって、大ヒットを記録している。他の曲も確固たるメッセージを込めながらも音楽的にも整合性が取れ、大衆性を孕んでいる。やはり、佐久間正英というプロデューサーの存在が大きかったのではないだろうか。佐久間を始め、ホッピー神山、岡野ハジメ、笹路正徳など、バンドブームの陰には名プロデューサーありだ。
広石によると、MCをほとんどしなかったのは“僕達の曲は長いから、MCを入れたら、全部、演奏できない。とにかく、歌い切った”という。その分、喉を休ませる時間がなく、大変だったと笑う。
それにしても広石の強い意志と往時と変わらぬグラマラスな佇まい。彼らは決して、ファンを失望させない。それを改めて確認できた。ファンにとっては長く記憶に残るステージだったのではないだろうか。2023年の“UP-BEAT”は颯爽とステージを去って行った。
そして三番目はZIGGYである。現在は森重樹一を中心にするプロジェクトで、長渕剛の全国ツアーに帯同するCHARGEEEEEE…(Ds)、ビジュアル系のFemme FataleのメンバーだったToshi(B)、BEAT CRUSADERSの元メンバーでトーキョーキラーのメンバーとして活躍するバンマスのカトウタロウ(G)がサポートしている。いずれも2010年代から森重をサポートしている気心の知れたメンバーだ。
彼らが登場して最初に披露したのは「GLORIA」である。いきなり、バンドブームも超えた国民的ヒット曲を持ってくるなど、反則である(笑)。当然、観客は総立ち、熱狂の渦に巻き込まれる。大ヒット曲の魔力というべき強みが発揮される。続けて「それゆけ! R&R BAND」。同曲もファンにお馴染みのナンバーだ。演奏を終えると、森重はこのライブに出演できたことを感謝する。JUN SKY WALKER(S)、RESPECT UP-BEATと一緒にステージに立てる喜びを語りつつ、“ジュンスカは変わらないね。少年のようだけど、中身はおじさん。広石くん、男前。だけど、おじさんなんだ”とギャグを入れる。その後も延々とMCが続く。ZIGGYを1984年に結成して、来年は40年になるという。いい意味で月日が人を変えていくのか。まさかの長尺のMCに驚く。実は後で、歌い続けるのはきついので、声と身体を休ませていたことがわかる(笑)。
「STAY GOLD」、「翳りゆく夏に」と、ミディアムスローの名曲で緩急をつけながら演奏し、聞くものを虜にしていく。心の奥底にすんなり入って来る、改めて、彼らの楽曲の自然なポピュラリティー、大衆性に脱帽だ。バッドボーイズロックの強面なイメージばかりが先走るが、ソングライターとしての確かな力量と懐の広さを再評価しなければならない。会場にいる観客も悩み多き青春時代を思い出し、懐かしさとともに忘れていたものを思い出したのではないだろうか。
「ONE NIGHT STAND」、「SING MY SONG(I JUST WANT TO SING MY SONG)」、「I'M GETTIN' BLUE」など、名曲が惜しみなく披露され、最後は「DON'T STOP BELIEVING」で締める。それらの曲間でも森重のMCは延々と続いたが、特に心に残ったものを書き留めておく。くだけた口調の中にも大事な言葉があった。“バンドブームで、デビューしなくてもいいようなバンドもいたけど、ちゃんとしたバンドはいまも残っている”、“このところ、たくさんのミュージシャンが亡くなっている。だけど、そんな奴らの思いを伝えていきたい”、“そのためなら、なんでもしてやる。そんな気概のあるやつは俺が手助けする。勿論、簡単に譲らないからな”ということを語っていた。うろ覚えで、正確な引用ではないので、音源や映像が公開される際にでも確認いただきたいが、おそらく、森重のそんな思いはここにいる多くの観客に届いたことだろう。
アンコールを求める拍手や歓声はやまない。ZIGGYとともに宮田和弥、広石武彦が登場する。ただの“アンコール”ではなく、タイムテーブルにある“スペシャル”だ。演奏に入る前に何故か、昔話に花が咲く。3人の掛け合い漫才(!?)は延々と続いていくのだ。広石も思わず、“森重さんはこんな人じゃなかった。MCが長いよー”と、突っ込みを入れる。立ちっぱなしでほっておかれた観客のため、宮田は“座ったままクラップユアハンズしよう”と提案する。そして森重が演奏したのはZIGGYのデビュー前からの初期のナンバー「Feelin' Satisfied」。座ったままで拍手というシュールな光景ながら大人になったバンドマンと大人になったキッズ達の魂の交感が行われる。誰もが笑顔で満足気である。生きていればいろいろなことがある。楽しいことも辛いこともある。いつか、君の中のつらいことを忘れさせてあげるという約束は、この日も果たされた。
大阪「Zepp Osaka Bayside」で行われた『 バンドやろうぜ ROCK FESTIVAL』。JUN SKY WALKER(S) 、RESPECT UP-BEAT、ZIGGYの時を経ても色褪せない、時代を超える名曲たちを堪能することができたのではないだろうか。バンドブームを超え、楽しみながらロックし続けることを選んだ――彼らの歌や演奏からはそんな決意と覚悟が伝わる。それにしても三者三様、自分達のロックへの拘りを感じさせる。ブームを突き抜け、いま自らが考えるロックが出来ている。同時に多くの人達に愛されるヒット曲の魅力も目の当たりにする。現象のみが語られることが多いが、その作品も改めて評価すべきだろう。いずれも人懐っこく、自然と心と身体に迫って来る。青春の応援歌(気恥ずかしい!?)も多いはず。また、当時はバンド同士がお互いに緊張関係にあったはずだが、いまは憑き物が落ちたかのように“旧友再会”の和みと親しみがある。いずれにしろ、ロックとともにいい大人になった。このバンドブーム再評価におごる事なく、しっかりと足元を見つめ、活動をしていこうとしている。50、60を超えてからが、ロックにやられたバンドブーマーの真骨頂なのかもしれない。
“バンドやろうぜライブ”は、まだ、名古屋と東京での公演がある。バンドは変わるが、是非、見ておくべきだ。繰り返しになるが、会場で配布される“バンドやろうぜ”の復刻版は貴重。いまのインタビューとアーカイブが収録される。当時のスタッフが制作に関わっている。そこにもロックし続けるものがいる。バンドブームから生まれたロッカー達はいまも健在。そんな彼らのいまがわかる。
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『バンドやろうぜ ROCK FESTIVAL THE BAND MUST GO ON !!』
2023年8月12日(土)大阪府 Zepp Osaka Bayside
<出演者>
ZIGGY / JUN SKY WALKER(S) / RESPECT UP-BEAT
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2023年8月19日(土)愛知県 Zepp Nagoya
<出演者>
GO-BANG'S / JUN SKY WALKER(S) / PERSONZ
2023年9月2日(土)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)
<出演者>
岸谷香 / 筋肉少女帯 / JUN SKY WALKER(S)
公式HP
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