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執筆者の写真Nobuya Horiuchi

アカネ&トントンマクートの真夏の出来事は盛沢山!――“サマーツアー2023”

更新日:2023年10月27日


暑い夏がまたやって来る――今年の夏は暑かったと、もうそろそろ、過去形で書きたいところだが、予断を許さない。いずれにしろ、前代未聞の酷暑、猛暑、おまけに台風が猛威を振るう。そんな中、彼らは精力的に動き回った。下山淳(G、Vo)をリーダーに穴井仁吉(B、Vo)、延原達治(Vo、G)、茜(Dr、Vo)という4人が集まったアカネ&トントンマクート。この夏、初めてのツアーに出た。彼らにとっては初の本格的なツアーになる。タイトルには“サマーツアー2023”と、冠したが、そんな名称はなく、特に明記されていない。ツアーそのものは7月17日(月・祝) 大阪「 ハウリンバー」、7月18日(火) 京都「拾得」、7月19日(水) 名古屋「Valentine Drive」の3公演を指している。しかし、同ツアーより前にツアーは始まっていた。7月2日(日)の福岡「KID ROCK」公演、7月14日(金)の東京・高円寺「JIROKICHI」公演を含め、“サマーツアー2023”と、勝手に命名させていただく。各地の公演も模様は福岡発のビートミュージックの応援サイト「福岡BEAT革命」のFBページで“速報”としてリポートしている。今回、同ページの記事を転載し、改めて彼らの2023年の夏の盛沢山の活動を“夏休みの日記”にして、書き上げた。9月12日(火)には東京のホームグラウンド(!?)、高円寺「JIROKICHI」でライブが行われる。その前に参考として少し長くなるが、読んでいただければ幸いだ。



アカネ&トントンマクート“サマーツアー2023”始まる!? まさかの“第一回福岡公演”が実現!!

▲Photo by Keiko Handa

その日、7月2日(日)の午後11時過ぎに「Bassic Rock Fes,2023」(BRF’23)の会場、福岡・天神の親不孝通りにある「Voodoo Lounge」へ穴井仁吉はやってきた。しかし、彼の出演の予定はない。ただ、“仲間”に会いに来ただけ。これから彼らと行くところにあったのだ。


「アカネ&トントンマクート」は7月14日(金)、高円寺「JIROKICHI」のワンマンを皮切りに17日(月・祝) 大阪「ハウリンバー」、18日(火) 京都「拾得」、19日(水) 名古屋「Valentine Drive」という“サマーツアー”に出る。7月18日(火)は下山淳が東京・下北沢「CLUB Que」で宮田和弥とのツーマンのため、参加できず、澄田健(G、Vo)がゲストとして出演する。

繰り返すが、これは彼らにとって初の本格的なツアーになる。昨2022年は7月30日(土)・31日(日)に札幌「Crazy Monkey」で“2DAYS”という札幌ツアーはあったが、ドラムスは茜ではなく、KJこと、梶浦雅弘、おまけにベースは穴井がツアー直前に骨折したため、参加できず、岡本雅彦が急遽、サポートを務めている。アカネ&トントンマクートとしても昨年の雪辱を今年、果さなければならない。その機会は予定よりも少し早く、訪れることになった。



「Bassic Rock Fes,2023」(BRF’23)には延原達治(Vo、G)と茜(Dr、Vo)の出演は当初から決まっていた。延原はTHE PRIVATES、DELTA ECHO、そしてDJとして、茜は三宅伸治、P.A Rhapsodies with AKANEのバッキングとして出演する。延原は2日間に渡っての参加になる。その後、下山淳(G)の出演が急遽、決定した。仲野茂バンドのギターとして参加することになったのだ。福岡にアカネ&トントンマクートのメンバー3人が集結する。


もし、そこに穴井仁吉(B、Vo)がいれば、メンバー4人が福岡で揃うことになる。穴井は6月30日(金)に大江慎也のバンド「Shinya Oe And Super Birds」のサポートがあったが、それを終えて、福岡へ行くことを決意する。アカネ&トントンマクートの福岡公演が急遽、決定した。告知されたのは6月の初旬のこと。


“Special Liveが決定しました! 7/2(日) 福岡 天神 SHOT BAR KID ROCK start/24:00 ¥2000+投げ銭”


穴井仁吉のアカウントから情報が発信された。7月2日(日)、開演は深夜24時から「Bassic Rock Fes,2023」の会場から徒歩数分の福岡・天神、親不孝通りにある「SHOT BAR KID ROCK」でミッドナイトセッションが行われる。異例のライブと言っていいだろう。翌7月3日(月)に開催すればいいことかもしれないが、しかし、彼らも予定が詰まっている。同日、同時間しかなかった。また、「Bassic Rock Fes,2023」と被ることはできない。まずは皆には“フェス”を楽しんでもらいたいという思いもあった。それゆえの、その時間、その場所である。告知自体もひっそりと行った。あくまでも“Special Live”。ちなみに同日の夜は「YAMAZEN&THE BLUES FELLOWS Feat TAD MIURA」のライブが行われていた。



アカネ&トントンマクートのメンバーは「Voodoo Lounge」から「KID ROCK」を目指す。歩いて数分、すぐ裏にある。同店はこじんまりとしたショットバーで、30人も入れば満員になるところ。席はすぐに埋まり、カウンターの中や入口まで人で溢れる。“フェス”の余韻もあり、この日ばかりは明日は月曜にも関わらず、終電が過ぎても帰りたくないのだろう。


楽器をセッティングし、音合わせなどしつつ、既に観客が入っているため、公開リハーサル状態になる。メンバー同士の冗談や観客とのやりとりなど、“穴井劇場”は相変わらず楽しい時間を提供してくれる。


また、この日は“Special Live”、メンバーだけでなく、岡本雅彦を始め、茜がドラムスを務めたP.A Rhapsodiesの清水一平、坂田かよなどもゲストとして加わる。店内に一段高く、広いステージがあるわけではないので、メンバーと観客が対面状態になる。定員オーバー状況。メンバーも狭っ苦しいところで、やりくりが大変そうだが、彼らとしてもどうしてもセッションをしたかったのだろう。


そんなやりとりを見せながら“アカネ&トントンマクート+”として曲ができあがっていく。流石、誰もが名うてのセッションマンだけある。12時を30分ほど、過ぎて、いよいよ本番が始まる。まずはお馴染み、下山淳が歌うニール・ヤングの「LIKE A HARICANE」からだ。説明不要の同曲をひりひりするような筆致で歌い、演奏する。少し和んだ空気が緊張を含んだものに変わる。


同曲に続き、穴井のオリジナル、MOTO-PSYCHO R&R SERVICE.の「 FEEL SO GOOD」で渋い声を聞かせ、延原は山口富士夫の「からかわないで」を熱唱し、そして茜はザ・デルフォニックスの「 La La Means I Love You(ララは愛の言葉)」でラブリーな風を届ける。いまや、トントンマクートではお馴染みのナンバーたちだが、緩急をつけながら彼らの世界に一気に引き込む手際は見事。バンドとして固まってきた証拠だろう。


下山はロベン・フォードがカバーした「Chevrolet」を披露する。同曲はメンフィス・ミニー&カンザス・ジョーのブルースナンバーで、タジ・マハールやブラック・クロウズなどもカバーしているが、半年ほど前、家にあるCDを何気なく聞いていたらデレク・トラックスがデレク・トラックス・バンドのアルバム『Songlines』でカバーしていた。アカネ&トントンマクートに現代のデラニー&ボニーとでもいうべき、テデスキ・トラックス・バンドと近似値を感じていただけにこの選曲も必然と言う感じがする。


▼With 岡本雅彦

ここでゲストが紹介される。岡本雅彦である。彼は「Bassic Rock Fes,2023」にWILD CHILLUNと仲野茂バンド、天神YMOで出演している。今回は北海道での感謝を込め、延原がお招きしている。前述取り、彼がいなければKJ&トントンマクートのツアーは成立していなかった。穴井の“穴”を埋めたのは彼だった。穴井は延原に岡本へちゃんとお礼をいうようにと促され、改めて感謝を伝えていた。Eli and The Deviantsの九州ツアーの中西智子もそうだが、彼を愛するがゆえ、万障繰り合わせ、駆け付ける。穴井は幸せものである。そんな穴井はスタンドマイクで岡本のベースで、サンハウスのナンバーから、作詞・作曲を鮎川誠が手掛けた「おいら今まで」を歌う。


▼With P.A Rhapsodies

次のゲストは茜が「Bassic Rock Fes,2023」でバッキングを務めたP.A Rhapsodiesの清水一平、坂田かよが参加する。彼らが加わると、音数や歌声が増えただけでなく、華やかさも増す。ストーンズの「Gimme Shelter」を豪快に聞かせる。ティナ・ターナーが二人いるみたいだ(笑)。


下山はモンキーズのスタッフライターとして知られるトミー・ボイス&ボビー・ハートの「あの娘は今夜(I wonder what she's doing tonight)」を披露する。偶然、ネットで見つけたナンバーだが、すっかり彼の曲になってきた。


同曲に続き、穴井はブルース期のフリートウッド・マックのナンバー「オンリー・ユー」をこれまた、渋い声で聞かせる。彼のヴォ―カルスタイルも確立されつつあるようだ。


茜が自ら歌詞をつけてカバーしている「Don't take my sunshine」(オリジナルはSTAXレーベルを代表する女性2名+男性2名の4人組ソウルグループ、Soul Childrenのナンバー)を心込めて歌う。彼女の歌は聞くものの頭に届き、身体を蕩けさす。


さらに延原がラストに向かい、「ミッドナイト・ランブラー」で弾みをつけ、下山が「Do The Boogie」を畳みかける。圧巻のブロックである。既に深夜2時も近いというのに会場は熱狂の渦と化す。観客はその演奏に呑み込まれていく。下山にしては珍しく、“夜はこれからだ!”と、叫びをあげる。


同曲を歌い終えると、そのままアンコールに突入。再び、P.A Rhapsodiesの清水と坂田が加わる。ボブ・マーリーの「Get Up Stand Up」を思い切り、ダブを利かして、聞かせる。狭い店内だが、“オヨーヨーヨー”とコール&レスポンスが巻き起こる。福岡・天神の親不孝通りがジャマイカのキングストンになった(!?)。


そんな興奮を鎮めるように下山が倦怠期の夫婦がもう一度、やり直すための歌と説明して、ニール・ヤングの「HARVEST MOON」を歌う。親不孝通りに満月が出ていたかは不明だが、放蕩息子たちとしっかりママの帰還を喜び、微笑んでいるように感じた。


まさかの第一回福岡公演の幕が開き、少しスタートが早まったアカネ&トントンマクートの“サマーツアー2023”である。


▲Photo by Keiko Handa






The Cover Of “JIROKICHI”――“サマーツアー2023”の始まりの始まり、当初は「次郎吉」からだった!?



ここに「JIROKICHI」の冊子がある。そこには同所の7月のライブスケジュール(出演者と日時)が書かれている。「店長のつぶやき」や「おすすめ」の食べ物の紹介もあるのだ。


そして、その表紙を飾ったのがアカネ&トントンマクートである。そのことをステージで延原達治は嬉しそうに語る。彼らが高円寺の老舗ライブハウス「JIROKICHI」に初めて出演したのは本2023年2月3日のこと。それから5カ月で、表紙に登場するという“昇格”ぶり。「JIROKICHI」にしても彼らに期すものがあるから、表紙へ起用したのだろう。


「JIROKICHI」(次郎吉)というライブハウスはWEST ROAD BLUES BANDや憂歌団、上田正樹とサウストゥサウス、渡辺貞夫、山下洋輔、ネイティブ・サン、Char、金子マリ、坂本龍一、有山じゅんじ、妹尾隆一郎,近藤房之助、永井ホトケ隆……など、日本のロックやジャズ、ブルースの歴史に名を留めるミュージシャンが数多く出演し、伝説のライブが連日、繰り広げられたところでもある。2020年には同店の45周年記念ライブの一環として、山下達郎のアコースティックライブが行われ、話題になった。前回、同所に出演した際の会場の雰囲気、観客の反応など、アカネ&トントンマクートにとっても特別なところ、“HOME”になるかもしれない――そんな「JIROKICHI」の冊子の表紙を飾ることは、いやがおうでも気持ちも上がるというもの。


当初の予定なら、この7月14日(金)の「JIROKICHI」のライブは、アカネ&トントンマクートとして、 前回、2月3日の高円寺「JIROKICHI」以来、4月23日(日)に所沢「MOJO」、24日(月)に下北沢「440」で山部YAMAZEN善次郎&The 幌馬車の公演があるものの、久しぶりのライブになるはずだった。ところが、予定は未定、常に状況は変化している。7月2日(日)、深夜に福岡・天神の親不孝通りにある「SHOT BAR KIDROCK」で行われた“Special Live”以来、12日ぶりのライブになった。“まさかの第一回福岡公演”の経緯は、延原からも説明された。


改めて繰り返す。福岡・天神、親不孝通りにあり、元HEAT WAVEの渡辺圭一が経営するライブハウス「public bar Bassic.」、同所が主催する「Bassic Rock Fes,2023」(BRF’23)。福岡の音楽ファンが狂喜乱舞する“ロックの祭典”である。今年の同フェスには延原達治(Vo、G)と茜(Dr、Vo)の出演が当初から決まっていた。延原はTHE PRIVATES、DELTA ECHO、そしてDJとして、茜は三宅伸治、P.A Rhapsodies with AKANEのバッキングとして出演。その後、下山淳(G)の出演が急遽、決定した。仲野茂バンドにギターとして参加することになったのだ。福岡にアカネ&トントンマクートのメンバー3人が揃う。もし、そこに穴井仁吉(B、Vo)がいれば、メンバー全員が福岡にいることになる。4人が揃えば、アカネ&トントンマクートの第一回福岡公演が出来る。下山の発案で、急遽、穴井を呼び寄せ、アカネ&トントンマクートの福岡公演が決定した。「Bassic Rock Fes,2023」の兼ね合いもあり、2日(日)の深夜からの開催、告知も直前と、まさかでいきなりの公演を下山は“強引だったかもしれない”というものの、それは7月14日(金)の東京・高円寺「JIROKICHI」を契機に同月17日(月・祝)大阪「ハウリンバー」、18日(火)京都「拾得」、19日(水)名古屋「Valentine Drive」という3日間の“サマーツアー”のいい意味での「前哨戦」になる。


曲目などを含め、詳述は避けるが、“仕上がっている”という感じである。これまでの実験や試行を齟齬や錯誤なく、アカネ&トントンマクートの音として、まとめてきている。何か、行く先を定めているかのようだ。実は福岡公演後、このライブの前日、13日(木)に18日(火)の京都「拾得」公演に下山の代わりに参加する澄田健(G、Vo)を含め、5人でみっちりリハーサルをしたという。澄田はThe 幌馬車にも参加しているが、アカネ&トントンマクートとしては初参加になる。そんな彼のため、模範を示し、道筋をつけていかなければならない。同時に各人の個性を存分に発揮しつつ、バンドに収斂させていく。時間の兼ね合いもあり、超絶的なインプロビゼーションやフリーフォームなアドリブの応酬というわけにはいかないだろう。


そんな修練の時間を経て、形や型ができていく。何か、そんな成果を感じさせる歌と演奏だった。各メンバーが演奏だけでなく、歌うというのもこのバンドの特色だが、延原を抜かせば、それまでヴォーカリスト専従ではなかったメンバーが歌うことに意識的になり、かつ、その実力を思う存分に発揮する。穴井の渋い声は聴くものの心を震わせ、下山の頼りなげに聞こえて、実はしっかりと歌を届ける。茜はソロ、コーラスともに延原が“美しきディーヴァ”と紹介しているが、まさにその通り。彼女の歌があることで、アカネ&トントンマクートというバンドの可能性も広がっていく。


この日、穴井劇場は相変わらずだが、延原の司会力が飛躍的に向上。話が行方不明にならず、収まるところに納まる。勿論、横道に逸れたり、脱線はお手の物。それを含めて楽しい時間である。途中休憩を挟みつつ、約3時間のルーツを辿りながら2023年のロックンロールを模索する音の旅物語。



このツアーの京都公演は歴史的建造物、京都の文化遺産とでもいうべき、1973年に開店した老舗ライブハウス「拾得」(“じっとく”と読む)で行われる。「JIROKICHI」から「拾得」へ。何か、彼らの進むべき道を指し示すかのようだ。歴史や伝統をリスペクトしながらもいま伝えるべき歌や音を紡いでいく。彼らの発言や活動から、それを嗅ぎ取ることができる。実はこの日のセットリストを撮影しているが、敢えて公開していない。曲名を書き込みながら演奏してないものもある。直前まで熟慮を繰り返す。彼らが安易なルーティンやクリシェに寄りかかってない証拠だろう。


アメリカのニュージャージー州で1967年に結成されたカントリーロックバンド「ドクター・フック&ザ・メディスン・ショー」(後にドクター・フックに改名)の1972年のヒット曲に「The Cover Of "Rolling Stone"」(あこがれのローリング・ストーン)というナンバーがある。“出世して、雑誌「ローリング・ストーン」の表紙に載りたい”という自虐的で皮肉まみれのナンバーだが、後に彼らは本当に同誌の表紙を飾っている。延原が「JIROKICHI」への愛情と尊敬を込めて語った言葉と被るものがある。当然、そこにアイロニカルなものなどはない。願いは叶うではないが、そんな憧れが次へと導き、それこそ、本家本元の“Rolling Stone”の表紙を飾ることになるかもしれない。延原は、国内ツアーだけでなく、ワールドツアーもしたいと言っていた。そんな始まりの始まりかもしれない。



アカネ&トントンマクートの“ロードムービー”開幕!大阪の下町・塚本「ハウリンバー」へ500マイル(キロ)もはなれて(Five Hundred Miles)


アカネ&トントンマクートのメンバーにして、いま最も注目されているドラマー、茜はラグジュアリーなミニバンを駆って、東京から大阪への長い旅に出る。前日、下北沢で激しいライブ(うじきタケシ+茜)をした翌日、7月17日(月・祝)の早朝からメンバーを待ち合わせ場所でピックアップして東名高速に乗った。自ら進んでその役目を引き受けたという。バンド時代もドライバーを務め、過去にも長距離を運転し、全国を回っていたそうだ。茜(Dr、Vo)の同乗者は、下山淳(G、Vo)、延原達治(Vo、G)、穴井仁吉(B)、そしてTHE PRIVETSのマネージャーという5人。ミニバンにメンバーと器材と夢を詰め込み、6人の冒険の旅は始まった。


各々がキャリアのあるミュージシャンであり、たくさんの作品を世に出し、多くの音楽ファンに愛されている。メジャーとのディールがあれば、あご・あし・まくらの気楽な旅になるかもしれないが、アカネ&トントンマクートに関しては、有名ミュージシャンが結成しているものの、まだ、ディールやリリースはない。いわばアマチュアやインディーズと同じである。Tシャツやグッズ、CD、DVDなど、リクオ言うところの“実演販売”しながら全国を駆け巡るのだ。


そんな環境や挑戦を喜んで楽しもうとしている。そこに本来、あるべき音楽の核心や未来があるからだろう。



穴井からは途中、SAなどで撮影した画像が送られてくる。駿河湾SAの喫煙室での喫煙タイム、土山SAでの記念写真など、嬉々として画像に納まる彼らがいた。

▲アカネ&トントンマクート・オン・ザ・ロード


7月15日(土)、16日(日)、17日(月・祝)という“3連休”の最終日にも関わらず、東名、新東名ともに渋滞はなく、順調に進んでいる。昼前には伊勢湾岸道路へ入り、渋滞が発生しやすい四日市JCTを超えていたようだ。



大阪の会場になる「ハウリンバー」は大阪駅からJR宝塚線で一駅の「塚本」にある。“ブラックレイン”でお馴染みの阪急神戸本線の「十三」からもバス利用で4分、徒歩でも20分ほど。十三と塚本は“親戚”(!?)みたいなもので、いい意味で下町の風情があり、商店街や飲み屋なども含め、東京だと蒲田や大森、赤羽という雰囲気だ。京阪神工業地帯とも隣接し、かつて「ハウリンバー」には深夜、早朝問わず、仕事終わりに食事や酒目当ての客が押し寄せたという。同所はオールナイト営業である。酔った勢いか、解体工とペンキ職人などが喧嘩を繰り広げることもあったそうだ。同店のつる店長は“塚本はブルーカラーの街だ”という。そんな場所で27年間、「ハウリンバー」はブルースバーとして経営されている。当初はブルースに拘り、ブルースバンドなどを中心にブッキングしていたが、やはりブルースだけでは運営しにくいため、数年後にはいろいろなバンドが出演するようになったらしい。勿論、そうはいってもライブスケジュールや外装、内装など、至ところにブルースへの拘りが伺える。


同店へは下山によると、下山淳と延原達治のツーマンツアーで、何度か、出演しているという。「ハウリンバー」という店の特色を理解している。それゆえ、今回のツアーに同所が組み込まれたのだろう。いま、彼らが目指すべき音楽に相応しい場所なのではないだろうか。


午後4時過ぎにメンバーが無事に「ハウリンバー」に到着する。早速、リハーサルを開始する。そのセッションではこの“ツアー”の前後で披露されていないナンバーも試されていた。ストーリーズの1973年のファンキーなヒットチューン「ブラザー・ルイ」やドアーズの1967年のヒットチューンでロック史に残る名曲「ライト・マイ・ファイアー(ハートに火をつけて)」を試している。果たして、同曲は披露されるのか。


他にもロジャー・ティリソンやジェシ・エド・ディビスの名唱で知られる「ロックンロールジプシー」、ドクター・フィールグッドのカバーでお馴染み「Talking About You」、サンハウスの「ぬすっと」、山口富士夫の「からかわないで」などが続々と演奏される。既に福岡の「KID ROCK」での“Special Live”や高円寺「JIROKICHI」でのライブを始め、澄田健を含めてのリハーサルなどを経て、楽曲たちが“仕上がってきている”。それゆえ、イントロやブレイク、リフなどの確認だけで済むところもあるようだ。


1時間ほどでリハーサルは終わる。穴井は大阪名物、たこ焼きで腹ごしらえ。用意と準備は万端である。開場の午後6時30分を過ぎると、観客が集まって来る。このために遠征した方や穴井の音楽仲間も来ている。年齢層が意外に若く、女性の方が多いのが特色か。本来は渋い音楽をやっているにも関わらず、会場は華やかで艶やかである。


開演時間の午後7時を5分ほど過ぎ、延原の“大阪では初めてのライブです”という挨拶からメンバー紹介が始まる。“リーダー、下山淳。ベース、穴井仁吉。美しきディーヴァ、ドラムス、茜。俺、延原です”と告げ、彼が歌う「からかわないで」(山口富士夫)からこの日のライブが始まった。


続いて「黒の女」を下山が披露する。心なしか、バッファロースプリングフィールドやマナサスのように聞こえるのは気のせいか。アーシーな音の中にトロピカルな音が交差する。



穴井は“モトサイコ”(MOTO-PSYCHO R&R SERVICE)の「GOT FEEL,SO GOOD」を歌い継いでいく。穴井は“茜さんの運転で、皆を乗せていってくれたけど、遠足に行くみたいな感じだった。いつも車内は男性だけしかいないけど、女性がいると違うね。空気感がまったく違ったよ”と、嬉しそうにおじさん発言する。そんな発言を受け、延原が穴井の大阪伝説を披露する。大阪のアメリカ村の三角公園を大きなテディベアの人形を持って、帝王のように歩いていたという。実際は借りていた人形を同所の店に返しただけだが、その姿を想像すると微笑ましく、大笑いしたくなる。そんな穴井劇場が延々と続くところを閑話休題と、延原が遮り、ザ・ルースターズのレアナンバー「TELL ME YOUR NAME」で会場の雰囲気を熱いものへ一気に上げていく。


さらに下山がジョニー・ウィンターの「ボントンルーレ」、穴井が鮎川誠作詞・作曲のサンハウスの「おいら、今まで」を畳みかける。


延原が下山の芋煮の拘りを語り、穴井へいい感じの中学生時代の話をすることを促す。お笑いの本場、関西で穴井劇場がどう受けとめられるのか、不明だが、観客は大笑いと唖然を繰り返しつつ、穴井へ付いてくる。流石である。実はこの話の流れではないが、この日、穴井も福岡は吉本の新喜劇が流れていて、よく見ていたことを明かしている。意外な吉本ファンであることをカミングアウト。これで高得点をいただくことになるだろう(!?)。


また、下山と延原はアカネ&トントンマクート結成秘話を語る。契機は2022年1月15日(土)に所沢「MOJO」で行ったライブだが、当初は穴山淳吉(下山淳+穴井仁吉)にゲストドラマーに茜を入れ、さらに延原もゲストでという形だった。当日も延原はオープニングアクトとしてソロとして出演、穴山淳吉+茜には延原は最初から参加せず、途中から加わっている。下山は様子を見ながら、バンドを組んでいった。下山は“自分の音楽性でバンドをやったことはない”と語っていたが、それだけ自分の理想とするバンド作りには慎重なのだろう。やはり、アカネ&トントンマクートは他のプロジェクトやセッションとは違う、そんなことを改めて心に刻むと、その音が違う色彩や角度を持って聞こえてくる。


茜は、いまやアカネ&トントンマクートの定番曲とでもいうべき、「Lala means I love you」を披露する。彼女の歌があるだけで、風景や空気が少し変わったことを観客は体感する。その歌に身を任せる心地良さを多くの方へ体感いただきたい。


第一部はザ・ルースターズの「ロージー」のダブ・バージョンから下山の「Old Guitar」へと続き、締めていく。まさに圧巻の中締めである。既に「ロージー」は「ロージーDUB」として確立される。彼らならではオリジナルがそこにはある。同曲を終えたのは午後8時45分。第1部だけでも1時間30分というボリューム。いい意味でサービス過剰(!?)がアカネ&トントンマクートである。



休憩時間、喫煙タイムの際に下山は“遠くから祭り囃子が聞こえてきた”という。大阪の下町、塚本を祭り囃子が包んでいく。20分ほどの休憩後、第2部がスタートする。


ロベン・フォードやデレク・トラックス、ブラック・クロウズのカバーでもお馴染み、カンザス・ジョー&メンフィス・ミニーの「シボレー」から始まる。ルーツを辿りながらもコンテンポラリーなものを目指す。アカネ&トントンマクートと共振するのではないだろうか。

同曲に続き、延原がサンハウスの「ぬすっと」を披露する。彼らがサンハウスに拘るのもサンハウスという大きな根っこを掘りながら新たに接ぎ木していく作業をしているからだろう。


延原は穴井劇場の再びの開幕を告げ、昨年の穴井の骨折のため、ツアーが彼不在のために変則的なものになったことや彼の入院中のお菓子持ち込み事件などをおもしろ、おかしく語る。東京のファンにはお馴染みのエピソードも関西のファンには新鮮に響くのではないだろうか。穴井仁吉という超ド級のミュージシャンを知っていただく、そんな広報活動もアカネ&トントンマクートの結成の契機でもある(と、勝手に断言しておく)。


そして、延原が“第2部のハイライト。”ここからが今日の山場です。美しいディーヴァがお贈りします。俺達、3人のサンシャインです。よろしくお願いします”と紹介し、茜が英語のオリジナルに日本語の歌詞をつけた「DON'T TAKE MY SUNSHINE」を歌う。“いろんな思いを込めて日本語にした”という同曲、聞くものの心と身体の深いところに届き、揺さぶる。彼女の歌がアカネ&トントンマクートの世界をもっと大きなものへと、導いていく。いま、彼女の、その歌を心あるミュージシャンが必要としている。改めて、数多いるドラマーの中で、茜を選択した下山淳の慧眼に敬服するしかない。


聞くものの心のひだを深く静かに押し開く。そんな余韻が会場を包む。そんな雰囲気の中、延原はストーンズの「ミッドナイト・ランブラー」、下山はニール・ヤングの「LIKE A HARRICANE」を畳みかけ、第2部の締めはザ・ルースターズの「DO THE BOOGIE」で会場のボルテージが一気に上がっていく。会場の温度が急上昇するのがわかる。


同曲を終えると、楽屋に戻る間もなく、そのままアンコールに突入。セットリストにはない、ロジャー・ティリソンの「ロックンロールジプシー」、ニール・ヤングの「HERVEST MOON」が立て続けて演奏される。アンコールを終えた段階で午後10時10分を過ぎている。休憩を挟み、穴井芸場を含め、3時間近い熱演。アカネ&トントンマクートの独壇場である。大阪の観客へ強い印象を残したのではないだろうか。延原は、また、大阪でやりたいと告げる。観客も既に心待ちにしているだろう。


彼らはやりきった。いまできることはすべて出したかもしれない。心地よい疲労の中、彼らは、まだやることがあった。観客や友人達との乾杯や談笑後、翌日、18日(火)の公演地である京都へ移動しなければならない。前乗りである。距離的には大阪と京都だから移動時間は1時間、距離自体も50キロほどと大した距離ではないかもしれないが、翌日の動きを考えれば移動しておいた方がいい。メンバーはミニバンに器材を詰め込み、京都を目指す。深夜のバイパスを経由して高速に乗る。京都は、祇園祭の熱狂は既に冷め、街が静かになりつつある。その車を運転したのは茜である。結局、この日は彼女が東京から大阪、大阪から京都へ、すべての運転を行っている。別に押し付けられたわけではなく、ダチョウ倶楽部的な“同調圧力”があったわけでもない。この日は彼女に任せれば、すべてがうまく行く。そんな思いがあったかもしれない。茜が勝利の美酒に酔うのは、車を駐車場にいれてから30分後のこと。ビールをとてもうまそうに飲んでいた。お疲れ様でした。





京都「拾得」でロックの神々に出会う――澄田代理リーダー、活躍する!


京都「拾得」。今年は“50周年”である。1973年2月18日に築300年の酒蔵を改造(テーブルや椅子は酒樽を利用している)して、開店した日本の音楽史の中にその名を留める伝説のライブハウスである。日本のロックやフォーク、ブルースなどの歴史と並走してきた。2018年2月に一か月に渡って「拾得45周年記念LIVE SPECIAL」を開催、永井"ホトケ"隆with 8823やシーナ&ロケッツ、デキシード・ザ・エモンズ、京都ブルースパワーズ with 入道、上田正樹、ひとりTOMOVSKY、ハンバートハンバート……などが出演している。山下達郎もその一環として同年3月16、17日に“アコースティックライブ”を同店で行った。今年2月、3月に同店の50周年記念のイベント「COFFEE HOUSE拾得50周年」を行っている。くるりやハンバートハンバート、木村充揮、近藤房之助、うじきつよし、リクオ、奇妙礼太郎、友部正人、原マスミ、THE PRIVATES……などが出演した。京都の住宅街の中にひっそりと佇みつつも、その存在は輝いている。下山淳は2021年2月12日に延原達治とのツーマンで「拾得」に出演。今回、同所でのライブを強く望み、敢えて「拾得」をツアーの“中日”にブッキングしている。ところが、そこに下山はいなかった。下山の場所には澄田健がいたのだ。


既に事前にアナウンスされていたが、その日、下山の代わりに澄田健が出席することになった。何故、そのようになったか。いわゆる“ダブルブッキング”である。スケジュールは彼が管理していたものの、盲点があった。下北沢のライブハウス「CLUB Que」のイベントでジュンスカイウォーカーズの宮田和弥とのツーマンが決定していた。同イベントの予定の変更を申し出るが、既に告知してしまい、予約も始まり、多くの方が楽しみにしているという。流石、強硬突破はできず、自らのバンドのツアーにも関わらず、リーダー不在という異例の事態が起こってしまった。下山は迷うことなく、澄田健を指名、彼に託す。彼とはこの4月に山部YAMAZEN善次郎&The 幌馬車として、ともに活動をしたばかり。誰が見ても妥当で、最善の選択だったのではないだろうか。


その日、7月18日(火)の午前中に下山は京都から東京へ、澄田は東京から京都へ向かう。澄田がアカネ&トントンマクートのメンバーと合流したのは、午後2時45分、メンバーが宿泊していたホテルのロビーである。彼らは茜が運転する車で「拾得」へ向かう。車窓からは二条城などが見える。束の間の京都観光か。車は広い大通りから狭い住宅道路を進む。大型の車なので、右折、左折さえ、難儀する。車が擦りそうになるが、彼女の巧みな運転によって、こともなく進んでいく。ホテルを出て、15分ほどだろうか、車は「拾得」の前に静かに横付けされた。


▲京都のホテルに集合。茜の運転で「拾得」を目指す


「拾得」は「京都府京都市上京区大宮通下立売下ル」にある。京都市営地下鉄東西線「二条城前」駅から徒歩約13分、同じく京都市営地下鉄烏丸線「丸太町」駅から徒歩約14分のところ。同所は繁華街から住宅街へ入り、数分歩き、静かな住宅地の中に忽然と現れる。酒蔵の扉があり、木彫りの店の看板があった。木のドアを押し開けると、「拾得」の世界が広がる。古民家カフェなどといういい方もあるかもしれないが、もっと、歴史の積み重ね、何か、伝説の世界に迷い込んだようだ。村八分や春一番、どんと、近藤房之助、拾得の周年などのビンテージなポスターが張られている。また、棚にはシーナ&ロケッツの『真空パック』のレコードが飾られ、そのジャケットには“Thanks 拾得”という言葉とともに鮎川誠のサインがあった。さらに遠藤ミチロウなどの写真もある。一瞬、時間が遡り、交錯する。歴史の中に吸い込まれていく。延原達治と茜は過去にも同所でライブを経験しているが、穴井仁吉と澄田健は「拾得」は初めてだという。あちらこちらを覗き込み、初の「拾得」を思い切り堪能する。確かにこれほど、古式ゆかしきながら、その雰囲気をいまに留め、かつ、温もりがあり、居心地の良いところは稀ではないだろうか。京都には「磔磔」という伝説のライブハウスがあり、「拾得」と同じようにロックファンに愛されているが、同所とも、また違った趣がある。東京や大阪とは異なるロックの歴史や文化がそこにあることを再確認させられる。京都は奥が深い。同所には50年前に「拾得」を始めた伝説の店主、寺田国敏(愛称「テリー」)さんも来ていた。延原は親し気に語りかけると、彼も嬉しそうに応える。


▲「拾得」の扉を開けると歴史と伝説の世界にタイムトリップ

実は延原の初「拾得」は高校生の時だった。それは出演やライブ観覧ではなく、幼馴染の親戚で京都の大学へ通うため、京都に住んでいる方の案内で、同所を“観光”したらしい。ライブ後のカフェタイムに訪れたそうだ。初ステージはTHE PRIVATESではなく、1991年2月にボ・ガンボスのどんと、ZELDAの小嶋さちほ、サンディー&ザ・サンセッツのケニー井上、延原というメンバーで弾き語りツアーを京都、名古屋で行っているが、その京都公演の場所が京都「拾得」。1991年2月14日、ヴァレンタインデイのことだった(名古屋公演はその翌日、15日、名古屋「ボトムライン」)。その後、THE PRIVATESとしても17年後、2008年に初めて「拾得」のステージに立っている。それは初ステージと同じ日付、2月14日だったらしく、当時、そのことを教えてくれたのがテリーさんだったという。


穴井や澄田は店内の“探検”に余念がない。同所の楽屋は階段を上った2階にあるが、土足厳禁。澄田は“まるで実家(広島県呉市)の居間のようだ”という。何か、リラックスできる場所だったらしい。午後4時過ぎにはリハーサルが始まる。今日は開演時間が午後6時30分と早く、また、音を出せる時間も限られている。それは街内にあるという特殊事情によるもの。それがこの日の意外な展開になるとは、その時は誰もが予想もしないことだったのだ。



▲「拾得」の楽屋とリハーサル風景

リハーサルは先週、東京で下山、澄田がともに参加して事前に行われているので、全体を通して演奏しながらリフやリズムなどの確認が行われる。また、アカネ&トントンマクートは全員が演奏だけでなく、歌うことをテーマにしている。そのため、澄田が新たに持ち込んだ曲もあるが、メンバーは彼と何度も演奏経験があるため、まさに息はぴったりという感じだ。1時間ほどのリハーサルで曲が仕上がって行った。アンコールなどは、これまで演奏してないナンバーも試されている。






開演時間の午後6時30分を10分ほど、過ぎて彼らの演奏が始まる。流石、平日のため、開演に間に合わない方もいるらしく客席はまばらである。時間が経つと席が埋まり出し、海外の方もいらしていた。おそらく、その外観と漏れ聞こえる音に魅せられ、入場したのだろう。流石、インバウンド需要が多く、「外国人が訪れたい都道府県ランキング」の常に上位に入る京都ならではだ。


アカネ&トントンマクートのこの日の1曲目は、地元・京都への敬意だろうか、村八分のギタリストだった山口富士夫の「からかわないで」。山口とは個人的にも交流がある延原が歌う同曲はファンにはお馴染み。これほど、「拾得」に相応しいオープニングナンバーはないだろう。


続けて、穴井がMOTO-PSYCHO R&R SERVICE(愛称は“モトサイコ”。メンバーはG、B、Drという3人組ロックバンド)のオリジナル「GOT FEEL SO GOOD」を披露する。モトサイコには澄田も参加していた。期せずしてメンバー2人が同曲を演奏することになる。リードギターを活き活きと澄田が弾いている。


同曲を終えると、延原がアカネ&トントンマクートとして“拾得は初になる”ことを告げ、メンバーを紹介する。そして、“助っ人の澄田健にも歌ってもらいましょう”と、観客へ語りかける。


澄田はスワンプロック、サザンロックを代表するC.C.R.(Creedence Clearwater Revival)の演奏で知られる「Suzie Q」(オリジナルはデイル・ホーキンス)を歌い出す。自らのオリジナルではなく、このカバーは意外な選曲だが、ルーツミュージックを辿るアカネ&トントンマクートへの敬意と愛情を感じさせる。いつになく、振り絞るような渋い声を聞かせてくれた。


同曲を終えると、延原が今日、下山がこの場におらず、澄田がこの場にいることを説明する。前述通り、“ダブルブッキング”。変更はできず、急遽、下山に代わり、澄田が参加することになる。澄田は“お陰で拾得へ来れた”と嬉しそうに語る。延原が“山形県鶴岡市のジェフ・ベック(下山)が広島県呉市のジェフ・ベック(澄田)に代わりましたが、いい時間を過ごせれば”と告げ、サンハウスの「ぬすっと」を歌い出す。彼の歌に澄田がシャープなギターを付け、曲の魅力を倍増させる。


「ぬすっと」を終えると、穴井は“「拾得」へ初めて入った瞬間に嬉しさでいっぱいになった”と語る。そんな穴井を延原がいじり、穴井劇場が始まる。食いしん坊、穴井にはたくさんの食べ物が差し入れされ、“食べ物で楽屋がいっぱい”と嬉しそうに話す。かつて、楽屋から食べ物を口に咥えたまま、登場してきたことも延原に明かされる(笑)。そんな流れの中、茜を改めて紹介し、彼女は「Lala means I love you」を歌い出す。同曲は延原と下山のリクエストで歌うことになったナンバーである。改めて、茜というヴォーカリストの実力を証明するナンバーだろう。その歌は優しさの中にも凛としたものを感じさせた。



穴井がドクター・フィールグッドもカバーしたウィリー・ディクソンの「ヴァイオレントラヴ」を披露する。ウィリー・ディクソンは第二次世界大戦後のシカゴブルースに最も影響を与えたミュージシャン、ソングライター、プロデューサーと言われている。「フーチー・クーチー・マン」(マディ―・ウォーターズ)や「ザ・レッド・ルースター」(ハウリン・ウルフ)など、ブルースの名曲を作ったブルースマン、ベーシストだが、かつて穴井は鮎川誠とブルースセッションをすることになり、その際、鮎川からウィリー・ディクソンみたいに弾いてくれたら嬉しいと言われたそうだ。


そんな鮎川の話からシーナ&ロケッツの「レイジー・クレイジー・ブルース」を延原が歌い出す。当然の如く、延原の歌も聞かせるものがあるが、裏でさり気なく主張する穴井の跳ねるようなファンクなベースが素晴らしい。改めて穴井のベーシストとしての実力と音楽的な引き出しの多さに感嘆するしかない。


延原がストーンズの「ギミー・シェルター」を歌う。アカネ&トントンマクートが同曲を歌うことができるのは、やはり、茜という歌手の存在があってこそだろう。本家のメリー・クレイトン同様、リードヴォーカルにコーラスをつけるだけでなく、その歌に対峙し、コラボレーションしていく。彩りを加えるなど、添え物ではなく、主役を引き立てつつ、確固たる存在感を放つ。おそらく、茜がいなければ、同曲はセットリストには加えなかっただろう。澄田の弾くキース・リチャーズのようなリードギターも同曲を見事なまでに引き立てる。


延原は “澄ちゃんが来てくれて感謝です”と、改めて澄田へ感謝を告げる。澄田も照れ臭そうにしながらも笑顔がこぼれる。延原と澄田は同じ1963年生まれ、同級生だという。同級生が困っていたら駆け付けなければならない。澄田はPANTAへの追悼の意味を込め、彼が歌詞を提供したザ・ルースターズ(Z)のナンバー「鉄橋の下で」(作曲は下山淳)を披露する。いうまでもなく、下山と穴井は“LAST FOUR”でもある。澄田は同曲へサイケデリックな魔法を施し、さらなる輝きを加えていく。同曲で第2部を締める。時計は既に午後7時50分を指していた。


10分ほどの休憩後、澄田の歌から第2部が始まる。デイブ・エドモンズがライブアルバム『デイヴ・エドモンズ・バンド・ライブ~アイ・ヒア・ユー・ロッキン』でカバーしたエルビス・プレスリーの「パラライズド」を披露する。延原はハープをブロウし、澄田はブライアン・セッツァーを彷彿させるロカビリーギターを聞かせる。


延原が穴井へ“いい感じの中学生”時代の話を振ると、いい感じなのは中学だけでなく、小学生、高校生もいい感じだったという。一時、いい感じではない時もあったが、最近持ち直してきたという……相変わらずの“穴井劇場”は意味不明なところもあるが聞いていると、自然と笑顔になる。やはり、人徳だろう。勿論、ちゃんとした音楽の話もできるのが穴井である。


彼はサンハウスの「拾得」でのライブ音源の話をする。1998年にリリースされた限定ボックス『ROCK’N BLUES BEFORE SONSET』に「SONHOUSE/1974年 京都・拾得LIVE」というタイトル通り、1974年のサンハウスの「拾得」でのライブを収録したディスクがある。それを貪るように聞いたという。同ディスクに収録されている“「おいら今まで」はいろんなところで歌ってきたけど、まさか、その「拾得」でやれるは感無量です”と語り、同曲を歌う。青年時代の夢が叶った瞬間かもしれない。


延原がロジャー・ティリソン、ジェシ・デイヴィスのスワンプロックの名曲「ロックンロールジプシー」をしんみりと聞かせる。延原は昨2022年、ロジャー・ティリソンのジプシー・トリップス時代の同曲のシングルをアナログ盤で手に入れたことを語る。そんな流れで、フリートウッド・マックのシングル「アルバトロス(あほうどり)」のアナログ盤も手に入れたそうだ。入手するにはそれなりの努力がいる。いわゆるマニアックな話だが、そんな拘りが彼らの音楽を醸成していく。


次はその「アルバトロス」を演奏する。同曲はインストゥルンタルだが、後半に2019年に「カンヌ国際映画祭」で上映された映画『勝利の選択』(48hfp OSAKA 2018 グランプリ作品)のエンディング曲にオリジナルな歌詞をつけた「SPENDING MY LIFE WITH YOU」という曲を入れている。それを作り、歌うのは穴井である(MOTO-PSYCHO R&R SERVICEでは必ず演奏するヴァージョンだという)。


彼は“昔、シーナさんから聞いたけど、鮎川さんと同棲し始めた頃、私達のアパートに篠山さんがやってきて、「アルバトロス」をボトルネックを弾きながら二人で練習していた”という貴重なエピソードを披露してくれた。


静かで揺蕩うブルージーなナンバーに穴井の囁くような歌が被さる。穴井の話を聞いた後にその曲を聞くと、英国で何十年も前(1968年)に生まれた曲ながらそれが身近なものとして感じられる。どんな曲にも背景があり、繋がりもある。聞くものは過去と現在を行き来する時間旅行の旅人となる。


同曲の後はお馴染みのザ・ルースターズ(S)の「ロージー」のダブヴァージョン「ロージーDUB」になる。アグレッシブでアバンギャルド。DUBの可能性を感じさせる。同曲に関しては圧巻の演奏。観客もその世界に引き込まれる。アカネ&トントンマクートのキラーチューンになりつつある。澄田のギターは下山とは違う切り口ながらその世界を大きく広げていく。


続いてローリング・ストーンズの「ノー・エクスペクテーションズ」を披露する。ダブからカントリーブルースへ、こんな変芸自在さも彼らならではだろう。


延原が改めて茜を紹介し、彼女が日本語詞をつけ、既にアカネ&トントンマクートの観客にはお馴染み、セットリストのハイライトになりつつる「Don’t Take My Sunshine」を披露する。初めて同曲を聞く京都の観客も心と身体を射抜かれる。深い余韻を残し、会場はいい意味での放心状態になる。いまとなってはアカネ&トントンマクートは彼女がいなければ立ち行かない。本当に得難い個性である。


同曲の後は延原がザ・ドアーズの「ライダーズ・イン・ザ・ストーム」、ストーンズの「ミッドナイト・ランブラー」を一気呵成に畳みかける。この日の大団円へ向かっていく。

その加速をつけるべく、穴井がフリートウッド・マックの「オンリー・ユー」を歌おうとすると、同曲で最後の曲になると、延原から告げられる。実は、「拾得」ではライブで音出しができるのは午後9時までになっている。住宅地にあるため、地域での取り決めで、終演時間を早めている。メンバーもそれを意識して、トークを短くしたり、休憩時間も短縮していたが、尺が足らず、セットリストの最後(+アンコール)まで演奏ができなくなってしまった。穴井は自分が歌う曲がこの日のクロージングナンバーなるけど、それでいいのかと、メンバーに確認を取る。勿論、メンバーに異論なし。そのまま最後まで行くことになる。同曲は穴井の音楽人生で初めて自分の歌う曲がクロージングを飾ることになった。穴井は覚悟を決め、渾身の歌と演奏を披露する。会場は突然の“ハプニング”を楽しみ、普段とは違うアカネ&トントンマクートを楽しんだ。メンバーはリーダー不在の危機を救ってくれた澄田に改めて感謝を告げ、ステージから消えて行った。


代理リーダーという重責を務めた澄田は満足気な顔をしている。下山から特に指示もなく、完全に任されたという。そもそも下山からは“例えば7月18日は空いている?”と言うことしか、知らされてなかったらしい。“例えばって、何だよう。対バンをするのか、ゲストで出るのか”くらいの認識で、後日、延原に会った際、それがアカネ&トントンマクートに参加し、かつ、京都であることを知らされ、驚いたそうだ。京都での公演に一瞬、迷ったが、断る理由はなく、快諾している。重責を任される形だが、澄田自身にはそんな緊張感はなく、彼は“山部さんの幌馬車でも一緒だし、カバーも多いから、何か、楽しみだし、実際に楽しんでやった”という。さらに“茜ちゃんのドラムス、気持ちいいし、延ちゃんは昔から知っている。穴井さんはザ・ロッカーズでも一緒だから、一回、リハーサルをやれば、ばっちりだ。本番も楽しかったけど、リハも楽しかった。とにかく、やり終えて、楽しかった。これからも準メンバーとして、飛び入りみたいな形でも参加させてください、という感じ”と語る。


ロックの神々との邂逅――「拾得」に棲息する精霊が彼らに語り掛け、それを観客へ伝える。過去が現在に紐づき、歴史となる。アカネ&トントンマクートはこの“拾得”の伝説や歴史の一部に名を刻む。そんな瞬間に立ち合うことになる。


予定は未定。時間の関係で演奏されなかった曲もあるが、しかし、その場にいたものは誰もが至福感に包まれる。観客も満足気な顔をして、帰路につく。当然、メンバーも下山不在の中、澄田とともに見事にやりきったことに満足気である。まさに奇跡は起こった、と言っていいだろう。


メンバーは「拾得」へ駆け付けた友人達と、束の間、和みの時を過ごす。こじんまりとした酒宴も開かれる。「拾得」からホテルへは、この日、初めて穴井が運転している。勿論、彼は飲酒していない。心と身体の高揚を内に留め、運転そのものは“ご安全に”である。彼らは明日、7月19日(水)、名古屋へ向かう。アカネ&トントンマクートの“ロードムービー”は、まだ、続く――。





名古屋の応援と支援――アカネ&トントンマクート名古屋場所千秋楽


アカネ&トントンマクートのツアー最終日、7月19日(水)、名古屋「Valentine Drive」。メンバーはその日の午前中に京都のホテルをチェックアウトしている。茜の運転で京都から名古屋を目指す。距離は約130キロ、時間は高速利用で2時間ほど。東京から一気に大阪まで走破した1日目と比較すれば3日目は楽な行程である。途中、SAに寄ったり、名古屋名物の喫茶店でお茶をしたり、味噌煮込みうどんやきしめんなどを食べる時間などもあったようだ。旅の途中で雨が降ったり、名古屋に入ってから雨に降られることもあった。その分、気温が下がり、過ごしやすくもなった。


▲1963年10月に日本で最初に作られた滋賀県のサービスエリア「大津サービスエリア」は恋人の聖地とされているらしい。このモニュメントは メビウスの輪のハートデザインで「裏表なく付き合えるように」とのこと(笑)。






名古屋「Valentine Drive」は今池という栄や錦に近い、名古屋の繁華街にある。かの「TOKUZO」なども近所にある。下山と延原は本2023年3月21日(火)に下山淳&延原達治として、同所で公演を予定していたが、同店が入るビルの大量漏水により通常通りの営業が出来なくなったため、名古屋・今池「パラダイスカフェ21」に会場が変更になった。二人にとっては初の「Valentine Drive」になる。


同所は雑居ビルの地階にある。通常のライブだけでなく、ジャズセッションなどもしているという。ちょっと隠れ家的な雰囲気を持つライブハウスだ。メンバーは4時には会場入り。その直前、雨が降り出したため、楽器の搬入は時間をずらすが、雨はすぐにやみ、急いで楽器や器材を搬入する。暫くすると、下山が東京から名古屋へ“戻ってきた”。到着するなり、東京は暑かった、名古屋は涼しいと叫ぶ。


リハーサルが始まる。リハではベンチャーズの「バンブル・ビー・ツイスト」やルースターズもカバーしたボ・ディドリーの「モナ」など、いままで演奏されなかったナンバーも試される。それらの曲は、結局、演奏されなかったが、次回に期待したくなる。試し演奏の他は、リフやテンポなどの最終確認が行われる。ツアーは3日目、既に音は固まりつつある。同時にリハーサルから下山が陣頭指揮を取り、音をまとめていく。下山は“予備校のいんちき講師”みたいと自嘲気味に語るが、下山リーダーが帰ってきたことを強く実感させる。


リハーサルは1時間ほどで終わる。いつになく、力が入っている。17日(月・祝)の大阪「ハウリンバー」、18日(火)の京都「拾得」、そして19日(水)の名古屋「Valentine Drive」という3日間、アカネ&トントンマクートの初の本格的なツアーの最終日に賭ける。何か、期するものもあるのだろう。いつになく、前のめりだった。


1時間ほどのインターバル後、午後7時30分過ぎにメンバーが軽快なラテンの響き(映画『危険な関係』のサントラからアート・ブレーキ―&キューバンボーイズの「危険な関係のサンバ<テイク2>」)をBGMにステージに登場する。下山はニール・ヤングのお馴染み、「LIKE A HURRICANE」を歌い出す。下山のギターも吠える。1日だけながらアカネ&トントンマクートに参加できなかったストレス(!?)を吹き飛ばすかのように剛腕で掻き鳴らす。何か、アカネ&トントンマクートが嵐に乗って飛翔していく――そんな予感を抱かせる。


同曲から延原が歌う「からかわないで」に引き継がれる。見事な繋がりである。今日は、何かが起こる、そんな期待に観客は心と身体を振るわせるのだ。


穴井はMOTO-PSYCHO R&R SERVICE(モトサイコ・ロックンロール・サービス)の「GOT FEEL SO GOOD」を披露する。アカネ&トントンマクートの既に定番曲になりつつある。


延原はアカネ&トントンマクートとしては“初めての名古屋になります”と、観客へ挨拶し、メンバーを紹介していく。“リーダー、下山。ベース、穴井。美しきディーヴァ、茜。そして、俺、延原”という、メンバーも紹介もいい意味で聞き慣れてきた。何か、バンドが一つとなるのを感じさせる。


延原はザ・ルースターズの「TELL ME YOUR NAME」を披露する。所謂、“幻の名曲”で正式なアルバムではなく、未発表曲を収録したアルバムに収録されている。そんな珍しい曲も聞けるのもアカネ&トントンマクートならではだろう。


続いて、下山がジョニー・ウィンターの「Bon-Ton Roulet(ボントンルーレ)」を歌う。元々はケイジャン風味のカントリーロックながら喉かな音ではなく、切れ味鋭い音に仕上げる。火の出るような演奏で、改めてギタリストとしての凄味を感じさせる。同時にこの4人でなければできないサウンドやグルーブがある。ただ、好きな曲を各自、演奏していると思われがちだが、ちゃんと、アカネ&トントンマクートのエッジをなぞりながらそのカラーに染まっていく。


延原は“2日間、大阪、京都とやってきて、今日は初の名古屋。気分は上々です”と嬉しそうに語る。穴井は“きしめん、喰って、美味かった。喫茶店も良かった”と、食いしん坊らしいコメントを出す。また、“今回のツアー、移動が快適でした。楽しいツアーでしたね。京都ではクロージングナンバーを歌いあげて終わった(会場の演奏時間の関係で予定していた曲を演奏できず、最後は穴井が歌うフリートウッド・マックの「オンリー・ユー」になった)。しみじみ、嬉しかった”と、早くも旅の総括を始める。マイペースな彼ららしいところ。



延原はサンハウスの「おいら、今まで」を歌い、続けてストーンズの「Gimme Shelter(ギミー・シェルター)」を畳みかける。勿論、同曲には茜の強力なコーラスが被さる。会場の熱が一気に上がり、座っていた席から立ち上がって、拍手と歓声を彼らに送る観客も出てくる。下山もそんな観客の反応を見て、水を得た魚、ロックの海を自由に泳ぎ回る。延原はそんな観客を前に“乗っているぜー”と叫ぶ。


同曲を終えると、穴井は“女子がいると楽しいね。遠足みたい”と、思わず声が出る。延原は改めて茜を紹介し、延原と下山がリクエストしたという、トッド・ラングレンやスィングアウトシスター、山下達郎など、数多の歌手がカバーしたデルフォニックスのフィリーソウルの名曲「La la Means I Love You」を佐々木が歌う。レゲエテンポにアレンジされた同曲が彼女の蕩けるような歌声に乗って観客へ届けられる。観客は静かに聞き入り、その歌に酔いしれる。同曲を歌い終えると、大きな拍手が巻き起こる。


同曲に続いて、お馴染み、ザ・ルースターズの「ロージー」のダブヴァージョン「ロージーDUB」が披露される。下山のエフェクターマジックでダブ風味が増し、“スカヴァージョンからダブヴァージョンへ”がすっかりスタンダードになりつつある。大幅な改変は行わないが、隠れたところで、アップデートしていく。オリジナルラヴや小沢健二のプロデューサー、クラブシーンのオルガナイザーとして知られる井出靖の自伝本『Rolling On The Road』の発刊を記念し、この3月に行われたたライヴストリーミングスタジオ『DOMMUNE』のセッションで下山、延原、池畑潤二というメンバーで同ヴァージョンが披露されたが、それ以来、完全に定番になりつつあるようだ。



第1部は下山淳が「Old Guitar」で締める。名古屋の観客は彼らの曲を聞き込んでいる。下山がイントロを弾き出しただけで、歓声が上がる。こんな反応はミュージシャンを勢いづかせ、嬉しくさせるというもの。名古屋の観客は特別かもしれない。同曲を終えると、午後8時30分を過ぎていた。40分近かった。1時間10分の凝縮された時間が過ぎていった。こんなライブを見せられたら堪らないだろう。観客も彼らの演奏に放心状態。その魅力を観客同志で語り合う。


20分ほどの休憩後、午後9時数分前にから第2部が始まる。ロベン・フォードやデレク・トラックスなどもカバーしているMemphis Minnie & Kansas Joeの「シボレー」が下山の歌と演奏で披露される。この曲も彼らの定番になりつつある。やはり、シャープな切り口のソロに観客も魅了され、歓声も一段と高くなる。また、メンバー紹介で、穴井は紹介された後、ベースソロを披露すると、観客から大歓声を浴びる。リアクションの良さが際立っている。名古屋の観客は演奏者を盛り上げるのが本当にうまい。誰もがこんなところで演奏したくなる。


延原はサンハウスの「ぬすっと」を披露すると、観客のリアクションが良かったのか、“愛と平和の祭典に集まってきてくれて、ありがとうございます”と、興奮気味に告げると、間髪入れず、“穴井さん、いい話、よろしく”と、無茶ぶり。穴井への無茶ぶりはいつものことながら、妙に高揚している、そんな延原も珍しい。穴井は延原の無茶ぶりに“忘れ物話”で応える。毎回、忘れ物をする穴井だが、今回は初日に“カポタスト” (ギターのネックに装着する演奏中に移調するための道具)を持ってくるのを忘れたようだ。下山は“肩パット?”と、突っ込みを入れる。見事なまでの、鉄壁のコンビネーションである(笑)。


穴井は多分、ドクター・フィールグッドで初めて聞いたという「ヴァイオレントラヴ」(オリジナルはビッグ・スリー・トリオ時代のウィリー・ディクソン)を披露する。穴井の味わい深い歌声を堪能できる。


同曲に続いて、下山がザ・モンキーズのスタッフライターとして知られるトミー・ボイス&ボビー・ハートのヒット曲「あの娘は今夜」(I Wonder What She's Doing Tonight)を披露することになるが、その前に宮田和弥とのイベントについて語る。その日、京都駅から品川駅へ着くなり、熱さを感じ、(宮田和弥と共演する「CLUB Que」がある)下北沢は発狂していたという。連日の熱帯夜、そして先週末から夏休みに入っている。夏休みを謳歌する若者で下北沢も“騒乱状態”になるというもの。会場には知らない人ばかりで、空気感が違う、アウェイ感を抱いたものの、好き勝手やったようだ。配信があるにも関わらず、危険は話(!?)もしてしまったという。興味のある方は配信を確認してもらいたいところだが、配信は既に7月24日で終了したようだ。


「あの娘は今夜」に続き、延原と下山がシーナ&ロケッツの「レイジー・クレージー・ブルース」のイントロを弾き出すと、観客が速攻で反応していく。その音楽的な反射神経に驚かされるばかり。


続いて、下山のオリジナルでロックンロールジプシーズのアルバム『ROCK'N'ROLL GYPSIES Ⅲ』に収録された「黒の女」が披露される。やはり、イントロから名古屋の観客は即座に反応し、歓声を上げる。そんな反応をされたらミュージシャンは嬉しくなり、演奏も違ってくるだろう。


延原から食いしん坊・穴井へ“穴井芸場”を振られる。穴井もこの日ばかりはサービスのてんこ盛り。弁当屋の峰岸さん(プライバシー保護のため、職業や名称は変えています!)の後日談が語られる。昨年、骨折で入院した際に食べ物を着替えなどに忍ばせて“密輸”したことは有名だが、その病院で、近所の弁当屋さんにいた峰岸さんがいて、彼女だと思って、声をかけたが無視された話をしていた。ところが、続報で彼女が店のお金を使い込み、持ち逃げ、かつ、20歳も下の若い店員を伴って失踪した噂を聞いたそうだ。それゆえ、名前や職業を偽って、病院に勤務していた。身元がばれるのを危惧して、穴井の呼びかけに知らないふりをしたのではないかという。まるで“火サス”(火曜サスペンス劇場)のような展開である。松本清張や山村美紗、西村京太郎が降臨したか。ことの真偽は別として、ストリートテラーとしての才能がこの3日間の旅を経験し、一気に花開いた(!?)。


そんなお笑いモードから一転、茜が思いを込めて日本語の歌詞をつけたというソウルチュルドレンの名曲「Don't Take My Sunshine」を披露し、会場を深い感動で震わせる。佐々木茜のヴォーカルは当然として、今度は後ろに回り、同曲を盛り上げる延原のコーラスも見事である。贅沢過ぎるソウルショーといっていいだろう。


続いて、ストーンズの「ミッドナイト・ランブラー」が披露される。穴井のランニングベースが挿入され、それまでとは一味違う、味付けがされる。同じことを繰り返しているようでいて、細かいところでアップデートすることを欠かさない。


そして、昨日、ラストナンバーになった穴井が歌うフリートウッド・マックの「オンリー・ユー」が“ラス前”として演奏される。そして、トントンマクートの最後の曲として、ルースターズの「Do The Boogie」が披露される。観客のボルテージが一気に上がり、“キャー”という黄色い歓声も飛び交う。音の法越境へと4人が一心不乱に楽器を掻き鳴らす。その音は至上の歓喜を運ぶ。同曲を歌い終えると、メンバーはステージから消える。午後10時を15分ほど過ぎていた。この日ばかりは時間制限はなさそうだ。観客の大きな声援と歓声と途切れることのない拍手、そしてスタンディングオベーションにアカネ&トントンマクートは応えるかのように数分でステージに戻って来る。


延原は“乗り乗りのみんなのところへ来れて、嬉しい。東京なんか、目じゃない。愛知を中心に活動します”という爆弾宣言(!?)も飛び出す。さらに“乗り乗りの人達がいるから、乗り乗りの曲をやります”と告げ、山部YAMAZEN善次郎のオリジナルでザ・ロッカーズもカバーした「キャデラック」が演奏される。The幌馬車では披露されたが、トントンマクートでは初ではないだろうか。取って置きの曲を取って置きの人達に届ける。


同曲に続き、お馴染み、「I'VE GOT MY MOJO WORKING」(Muddy Waters)を畳みかける。その勢いは一気に加速していく。会場は興奮の坩堝と化す。ソロを回しながらメンバー紹介と観客へ感謝を告げる。


同曲を終えると、延原は“最後にもう1曲、下山さんに歌ってもらって、お開きにします”と告げる。下山は“ありがとう”へ感謝を告げ、再度、メンバーを紹介する。そしてニール・ヤングの「HERVEST MOON」が歌われる。同曲をしんみりと歌い終えると、観客からは惜しみない拍手が送られる。午後10時30分を過ぎていた。観客は余韻に浸るようにライブが終わっても立ち去らず、メンバーと記念写真を撮ったり、サインを貰ったりするものも少なくない。アカネ&トントンマクートを待っている人がいる。歓迎してくれる人がいる。招聘してくれる人がいる――そんな人たちに彼らは会いに来る。観客と演者の絆を結ぶ、旅だったのではないだろうか。それにしても名古屋の熱気はすご過ぎる。熱気に出会うために彼らの旅は続く。





それにしても名古屋の熱狂。何が起こったのか。それに気づくのは翌日のことだった。実は名古屋でのライブ後、彼らは茜の運転で、そのまま東京へ戻っている。午後12時過ぎには同所を出た。彼女はメンバーを無事に送り届け、早朝にはツアーは終わった。


私自身は車移動ではないので、当初は新幹線や高速バスの時間をチェックしていたが、ライブ終わりであれば、高速バスは間に合ったかもしれないが、やはり、彼らが名古屋を発つまで見届けなければならない。結局、終演後、ホテルを探した。漸く大須観音に近いホテルが見つかり、深夜にチェックインして、宿泊することにする。


▲大須観音と大須演芸場


翌朝、起きて、ホテルの周辺を散策した。大須観音では、アカネ&トントンマクートの成功と健康をお祈りした。


そして商店街を進むと、かの「大須演芸場」があった。この街は博多と同じように寄席など、演芸を愛する人達がいる。ロックと歌舞伎を融合させた「ロック歌舞伎スーパー一座」やパンクと歌舞伎を融合させた「パンク歌舞伎」なども支援していた。芸事を愛し、応援する土壌がある。



さらにアーケイドを進むと、名古屋グランパスエイトの横断幕とともに“名古屋は武蔵川部屋を応援する”という上りがあった。そして、朝稽古の場所も記してあった。寺社の敷地内に土俵が設えられ、かつての武蔵丸、現在の武蔵川親方が弟子たちを指導していた。丁度、名古屋場所の最中でもあった。街を上げて、演芸や大相撲を応援する、そんな気風があるのだ。


昨日の熱狂と応援や支援は、そんな素地があってのことかもしれない。実は昨日のライブの主催はライブハウスやイベンターではなく、素人ながら自らの手で地元にいろんなバンドを招聘している方だったそうだ。見たいバンドがいるから、呼ぶ、そんな行動力も名古屋だからだろう。そしてその思いがバンドにも伝わり、また、来たいと思わせる。何か、そんなやりとりや作法を感じさせるのだ。漸く、合点がいった。


ホテルをチェックアウトして、名古屋駅へ行くと、新幹線乗り場の改札に黒山の人だかりができていた。聞けば、昨夜、プロ野球のオールスターゲーム「2023年プロ野球オールスターゲーム」がナゴヤドーム(バンテリンドームナゴヤ)で行われ、今日の開催地である広島マツダスタジアムへ移動のために新幹線に乗り込むと言う。気づいたら、折角の機会と、選手の名前など、よく知らないが、彼らが来るのを待つ。なかなか、来なかったが、30分ほどしたら、歓声が聞こえてきた。遠くでよくわからなかったが、WBCでも活躍した千葉ロッテマリーンズの佐々木朗希だった。そういえば、アカネ&トントンマクートもミュージシャンとしてオールスターメンバーである。まだ、ナゴヤドームは満杯にできないが、いつか、きっと……だ。

アカネ&トントンマクートの“サマーツアー2023”後の活動に触れておく。既に終了したものも多いが、いかに彼らが精力的に音楽活動をしているかがわかるだろう。延原はザ・プライベーツやソロのライブ、そして8月13日(日)に久留米で開催される「サマービート2023 MAKOTO祭り! ~Greatest Thanks鮎川誠~ シーナ&ロケッツ」へザ・プライベーツとして出演、さらに延原は手塚“ショーネン”稔(ザ・プライベーツ・デルタエコー)、穴井と澄田とともに同月14日(月)に福岡で開催される「鮎川誠 追悼ライブ 福岡 SHEENA &THE ROKKETS MAKOTO AYUKAWA FAREWELL LIVE HAKATA<音楽葬>」へ出演、茜は8月からズクナシ時代の盟友・衣美(ウルトラエミ)、小林”Bobsan”直一(ハイパーボブ)、 (田名網大介<ネバーダイ>)らと結成したソウル&ファンクバンド「EMILAND」の新作アルバム『Roll』のリリース、そのリリースツアー"EMILAND ROLLin JAPAN TOUR 2023"が全国で開催される、そして下山淳は7月28日(金)から30日(日)まで、下山淳(Vo、G)、山本久土(Vo、G)、イマイアキノブ(Vo、G)という3人で回る”BIC3 TOUR”長野 大阪 名古屋が控えていた。様々なセッションやコラボレーションにも駆り出された。さらに9月23日(土)には「中津川 THE SOLAR BUDOKAN 2023」にROCK’N’ROLL GYPSIESとして出演する。


メンバーは大忙しである。アカネ&トントンマクートとしては、9月12日(火)東京・高円寺「JIROKICHI」でライブが行われる。盛沢山の真夏(!?)を経て、彼らがどんな姿を見せてくれるのか。見逃さないで欲しい。もっと、たくさんの方がそれを目撃すべきだろう。


なお、サマーツアーの感想と明日の「JIROKICHI」についてメンバーにコメントをもらった。短いものだが、自然体の彼ららしい言葉が躍る。そんな彼らに会いにきていただきたい。


穴井仁吉

「アカネ&トントンマクート~とにかく演ってて嬉しいです。リハーサルやライブ中~メンバーを見て聴いて楽しくなります! これからもメンバーの皆様&応援してくれる皆様~ヨロシクお願いします!」


下山淳

「まあ成り行きでこうなったんだけど元から茜というかズクナシは気になってた。一度、フェスで観ただけなんだけど(笑)。ダメ元で誘って良かったね。ジジィ達と演るのはイヤかと思ったんでね(笑)。穴井と延原はもうずっと、長いことつかず離れずというか、折に触れて側にいるというか。仲間だね」


「トントンマクートはじめてのツアー大阪、京都、名古屋、3デイズ、旅ができることは嬉しいことで、新たな気づきや出会いを運んでくれます。先輩方と貴重なライブ、スーパーヘルプの澄田さんとも再演、ありがとうございました。次回の9/12ジロキチも楽しみです。よろしくお願いいたします」



延原達治

「アカネ&トントンマークのツアー、3日間だったけど、出発から到着まで、オフステージからオンステージまで、一言で言えば楽しかった。とてもフレッシュな感じだった。これからはレパートリーを増やして、オリジナルも作りたいと思う。新しい挑戦をしていきたい。今年、10月26日に還暦、60歳になるけど、下山淳と20歳で出会って、40年後にこうして一緒に音楽活動できることが感慨深いです」



【アカネ & トントンマクート】

#下山淳(G、Vo.)

#穴井仁吉(B、Vo.)

#延原達治(G、Vo.)

#茜(Dr、Vo.)


9/12(火) 高円寺 JIROKICHI

open/18:30 start/19:30

adv/4,000(+1D) door/4,500(+1D)

※ ジロキチHP《予約フォーム/STAGLEE》にて

8/15(火)19時より予約受付中。



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