かの石井岳龍が石井聰亙時代に監督し、1982年に公開された“伝説的ニュー・ウェーヴ・パンク映画の金字塔”として燦然と輝く『爆裂都市 バースト・シティ』(『爆裂都市 BURST CITY』)。福岡のロックを愛する者にとっては説明不要の作品だろう。当時、ザ・ロッカーズの陣内孝則と鶴川仁美、ザ・ルースターズの大江慎也と池畑潤二が劇中の架空のバンド、バトル・ロッカーズのメンバーに扮して、暴れまくっている。
その『爆裂都市 バースト・シティ』のYouTube無料配信が決定。東映が運営するYouTube チャンネル「TOEI Xstream theater」の「土曜21時は映画を見よう!」シリーズの第1弾として3月20日(土)21時より1週間限定で無料配信&プレミア公開されることになった。
同映画の配信に合わせ、公開時の陣内孝則と大江慎也の対談を掲載する。『MUSIC STEADY』の1982年春号(発刊当時は季刊。その後、隔月刊、月刊になる)から抜粋(と言ってもほとんど掲載しているが)。映画のことだけでなく、当時のロック・シーンを見据え、80年のデビューから約2年、過渡期にあるお互いのバンドのことなどもシリアスに語っているのだ。
バトル・ロッカーズは新しいバンドっていう形で、セッションが出来た
――まず、どういう感じで、バトル・ロッカーズの5人のメンバーが決まっていったかを話してくれる?
陣内 石井監督から、去年(1981年)の頭に映画を一緒にやらないかって話があって。で、その時は、まだ、メンバー云々について聞いてなかったんです。映画自体が具体的になっていった段階で、ルースターズの大江と池畑、うちの鶴川に決まって。で、ベースはちょっと他のところからキャラクターの強いのを探してやってみないかってことが監督からあった。シド・ヴィシャスを和風にした感じのあくの強いのをオーディションで選んで(伊勢田勇人)、それでバトルズを構成していくっちゅう感じやった。
大江 それで、最初はロッカーズとルースターズの混合バンドみたいな風に見られた部分もあったけど、そういう感じじゃなくて、まるで新しい一つのバンドっていう形で、セッション活動出来たみたいな感じ。
陣内 すごいですよ。ロッカーズ解散しても食っていけるんじゃないか(笑)。それは冗談やけど……。
――セッションしてみて、どうだった?
陣内 今回は、俺がずぼらなために、それを大江がフォローするのに大分、負担をかけてしまって……ゴメンね(笑)。
大江 すごい短い間のリハーサルでたくさんの曲を上げなきゃいけなかったんだけど、その時期、曲のストックとかの問題がいろいろあって……でも、早い時間で上がったね。
陣内 才能があるっちゅう言ったら、それまでだけどね。
大江 それは言わん約束やろ。
陣内 実はこういう曲があるっちゅう感じでやった時、うちのメンバーなら、大体、これだって分かるんですけど、意外性があって、とても面白かった。大江のギターのトーンにしても、鶴川や谷が出すのと違って、そういう部分でも刺激的やった。
大江 発展性があるというか、こんな形でのセッションって初めてだったから、新しい刺激になったから。
陣内 ベースの伊勢田もガンバッたしね。オーディションに立ち合ったのは俺だけで、その時はあくが強い奴だけど、大丈夫かななんて思っとったけど、結構良い感じで弾いてくれて。
――映画音楽もサントラ・アルバムとして発表されるでしょう。
陣内 映画音楽はとりあえずバトルズが生でやった音をベースにして、いろいろ音を重ねたりして作ったんですよ。インストも3曲ぐらい入ってるんですよ。
大江 ただの映画音楽っちゅう感じじゃなしに、音楽自体だけとっても面白い。わりと線を超えたものを作った。
陣内 今までの映画音楽っちゅうと、イージー・リスニングっちゅうニュアンスが多分にあるでしょ。そういうのを打ち砕くだけの曲になっとると思う。ただの映画音楽というには片づけられないパワーが漲っとると思う。痺れるもんね。
『バースト・シティ』は俺達の知性が出ている
――映画のストーリーを教えてくれる?
陣内 あらすじは、近未来のSFで、破怒流(バトル)地区っちゅう架空の都市があって、そこの今でいう暴走族、ゼロヨン・レーサー軍団の頭となっているメンバーがバトルズで、最高のロック・バンドなんです。大江がレーサーで、俺が頭。マッド・スターリン(スターリン)っていう品のないグループと抗争事件を起こすわけ。で、そのやり返しだって感じで最後は暴動になっていくんですけど。それともう一つ別な話があって。キチガイ兄弟(戸井十月・町田町蔵)っていうのがあって、それが下層階級の中に入っていって、昔受けた仇を復讐するっていう。それで最後に暴動になだれこんでいく。結局、どこでも盛り上がっとる映画。
大江 でも、今、ロンドンとか、西ベルリンとか、ヨーロッパのティーン・エイジャー、労働階級というか、その辺の人達の今の生活してる部分と、全然、海を越えて遠いんやけど、映画の中でつながってる部分がある程度、出ている。
陣内 演技やって、どうだった?
大江 時間の問題とか、きつい部分もあったけど、本当、楽しんでやれた。
陣内 俺がまわりから言われたのは、ようするに役者と張り合っても絶対、負けるから、演技という面では。演技せんかったら、役者に勝てるちゅうわけ。そこがなかなか難しいところで、例えばリハの時に、今の表情が良い、今の表情やってくれ。で、いざ本番の時には、もうそれは演技ですよね。そうなってくると違うんですよ。そこら辺で難しかったちゅうか、悩んだところがありました。
大江 自然に動きよったら良い感じもあるけど、そのままじゃね。なんか、普通から超えたところで、なんかありよるっていう気がいつもあった。
陣内 (大江のピンクの靴を見ながら)最近、ピンクが多いね。ステージもピンクの衣装とか着て。で、今度、バトルズになると黒づくめのクールな、ストイックな人間になるわけ。どげな感じ? 自分と違う人間になろうとしようとか?
大江 まあ、全然、違うな。違うゆうても、演技する時だけやなくて、何かする時でもある程度、限界あるよね。その中でそげんめちゃくちゃ変化するっていうのはないね。
陣内 ある程度、ルースターズの延長線上にあるというか。
大江 ア・カインド・オブ・ルースターズっていうか。
陣内 俺の場合、原点に立ち返って、ファースト・アルバムを出した頃のちょっとギラギラした部分を音楽にしても、映画にしても出せた。バトルズやったことで、ある程度、もう一度、原点に立ち返って、面白かったちゅうか。
大江 時々、そういう状況に自分を持っていくというか、あんまりないんじゃない。
陣内 とにかく全国の人に見てもらいたいですね。ライブハウスがない街でも映画館はあるから、見て欲しいね。そういうので俺達のバンドの起爆剤になる。『狂い咲きサンダーロード』で30万人の人が見るわけで、俺達が30万人の客を集めるとしたら、とんでもない話じゃない、今の力じゃ。そういう意味で正解やったね。それと、今までバイオレンス・アクションって見る人が決まってて、何十万人ぐらいは見るけど、その枠ははみ出しきらん。『バースト・シティ』の場合はそれを破れるものを秘めてると思う。普通のバイオレンス・アクションものと違うのは、俺と大江の知性が出てるということで、文化人とか、政治家とか、そこら辺の人に見て欲しいね。あと女子高生とか。
大江 男子の人とか(笑)。
陣内 運動部のガッツ野郎とかね。
クリエーターを維持する態勢を作るのは当然
――話は戻るんだけど、最初に映画入る時の映画に対する姿勢はどうだった?
陣内 とにかく俺は、映画に入った段階で余計なことは考えなかったですね。俺が監督に言われていたのは、前のめりの人間であること。何か言うとことにすぐ蹴る人間であること。で、そういう部分、自分の中にあるし、それ一発でもうがむしゃらにやってみた。
――そういうところが自分のキャラクターと合致してたというのはあったでしょ?
陣内 俺は多角的性格を持ってます。すごい機嫌の良い時はすごいヒョーキンモンだし、逆にカッとくると手がつけられない。どっちかというと、そっちの方の人間なんですよ、今度の映画は。そういう意味では役を作っていく苦労はなかった。ただ、時としてヒョーキンになろうとするのを監督は、自分に返らないでくれって。
――ライブにしても、最初の頃はスピーディーで、とにかくしゃべりなんていうのはなかったんだけど、最近はそういう面も出してるでしょ。
陣内 客に次のアクション見られたらおしまいだと言う気がするんですよね。今後もボンボン変わっていこうと思ってるんです。
――それはルースターズにも言えるね。
大江 そうですね。最初のレコードが。今の希望としては、爆弾が破裂するぐらいの派手さと、暗黒の海底に落ちていくめちゃめちゃな暗さ、しぶれフグのような美しさ(笑)。それをわりと派手にやりたい。
陣内 最近、ルースターズ見て感じたのは、メジャーな顔になったと思う。変な意味じゃなくて。マイナーのかっこ良さって最初の頃あって、俺もしびれとったけど、今度はポップになってきて、売れてもおかしくない顔になってきた。
大江 俺、最初にロッカーズ見た時、わりと完成されたイメージがあった。勝手な見方やけど。その辺のイメージを打ち壊して次がありようってのが伝わってくる。
陣内 お互いに持ち上げみたいになるけど、裏を返したら曲がり角っていうか、ヘタしたらやけどしそうやなと思うっちゃ。
大江 問題に何かぶち当たって、それをとらえて、解答を出していく。そして、次へ行くという、いつもその辺を体質としてやっていきよるバンドは……俺達しかいないっちゃ。それと、広い意味でいうクリエーターを維持する態勢を作るのは当然やと思う。その辺って、うじゃむじゃになってること多しね。
陣内 はっきりいえば、まず、金の問題?
大江 そう。
陣内 俺達みたいなバンドって続けることに意味があるでしょ。でも、続けるためには実力とか、チーム・ワーク以前に金の問題とか、現実的な部分がものすごく大切だと思うんですよ。俺達もつい、じゃあ、やるっきゃないみたいな言葉で、自分を駆り立てるみたいなことあるけど、もっと創造的なことをやるには売れなければいかんと思う。ストーンズがあれだけ長く続いたのは売れたからだと思う。
大江 維持していくだけのバンドなんて面白くない。
陣内 なんか、急に暗い話になった。でも、夢は相変わらず食ってますけどね。
俺達はいつも時代とともに進んでいます
大江 で、今後は面白いことを作り続けていくという、その辺の根本的なことを忘れずに続けてやりたいと思ってる。
陣内 先も言ったように困難な部分もあるけど、そこら辺を俺達の世代で確立していくってのが一つ。あと、俺達、前から言いよるけど、ヒット。チャートあたり自由に出来たらなあ。別に一回で良いですよ。別に拘らんけど、言った限りはやるまでやろう。
大江 独自のスタイルでバンドがやっていくというのはロック・シーンが面白くなっていくと思う。カテゴリーをぶち壊そうというのがいつもあるんやけど、結局、懐古的なカテゴリーにとらわれて、早い話、今まであったというのがあるし、今までと全然、違うものが出て来ても当然と思う。
――そういう面で、よく同時代性がないって言われたでしょ。そういうのをどう思ってる?
大江 すごい(時代を)映している思うんですよ。映し方の問題だと思う。俺達はいつも時代とともに進んでいますよ。
陣内 九州のバンドは、古いものから新しいものを見つけてくるのが確かにうまいけど、けして懐古趣味的なものでないですよね。
大江 自分達の視線がはっきりとしとるけん、時代性はいつもある。
陣内 俺は時代性云々というより、不幸なバンドになりたくない。例えば曲がヒットすることによって不幸になるバンドがありますよね。そういう部分、俺達が今後どういう方向に進もうが、ちゃんと自分の視点をはっきりさせといて、しっかり地に足をつけてやっていくの
が一番大事なことやないかな。
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実は同映画のオリジナル・サウンドトラックは新たな解説をつけた新装版が2018年8月12日に60歳になった陣内孝則の“還暦記念”として、80年代にリリースしたソロ・アルバムからの自選集『ANTHOLOGY OF J』とともに同年8月17日に同時リリースされている。
サントラには陣内や大江など、バトル・ロッカーズのメンバーだけでなく、ルースターズから花田裕之、井上富雄、後にメンバーになる安藤広一も参加している。「1984」とクレジットされているが、基本は大江抜きのルースターズにプロデューサーの柏木省三を加えたプロジェクトである。プロデューサーの意向でインストなども制作され、井上、花田、池畑も楽曲を提供している。勿論、復活したザ・ロッカーズのステージを彩る名曲「セル・ナンバー8(第8病棟)」も収録。
新装版の解説の中で、陣内は同映画について「自分のアリバイになっているのは確か。監督に出演させてもらって、いまだにこの業界にいる根っこになっている。とてつもない財産。あの時は、このわけのわかんなさはなんなんだろう(笑)と思ったけど、ここまでカルトムービーとして若い人に支持されるとは予想だにしなかった。世代も超えているでしょう」と語っている。また、大江は「若い気持ちの開放には、役立てるのではないでしょうか。あまりよく覚えていないのですが、当時かなり神経をすり減らしました」と、その心境を述懐している。
サントラとしても破格の出来である。『爆裂都市 バースト・シティ』配信後、同作のブルーレイやDVDとともにCDも福岡のロック・ファンなら必携である。それ以前に”福岡BEAT革命”の必須科目。必見、必聴だ!
『爆裂都市 バースト・シティ』
【映画全編無料配信】爆裂都市 バースト・シティ 毎週土曜はXstreamな東映制作の映画を配信!第1弾は「爆裂都市 バースト・シティ」(1982年公開)!
►Xstream…[過激][極限](エクストリーム)な[映像配信](ストリーミング)作品
2021年3月27日(土)21:00までの期間限定配信。
(2021年3月27日(土)からは別の映画を1週間限定で配信いたします。)
これは暴動の映画ではない。映画の暴動である。
怒り、敵意、欲望、反抗──若者のフラストレーション爆裂。
【解説】
近未来のある都市を舞台に、原発建設の強制労働を強いられた下層民たちが結託、やがて暴動へと発展していくさまを描いたSF バイオレンス。陣内孝則率いる“ロッカーズ”をはじめ“ザ・ルースターズ”や“スターリン”などのロックミュージシャンたちや上田馬之助、コント赤信号など個性豊かなタレントが多数出演する。美術監督を泉谷しげるが担当している。
【キャスト】
陣内孝則/大江慎也/伊勢田勇人/鶴川仁美/池畑潤二/町田町蔵/大林真由美/コント赤信号/スターリン/戸井十月/上田馬之助/泉谷しげる/麿赤児/吉澤健
【スタッフ】
監督:石井岳龍(聰亙)
脚本:石井岳龍(聰亙)/秋田光彦
配信日時:
2021 年 3 月 20 日(土)21:00~2021 年3月 27 日(土)21:00 迄
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